『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

前口上(ブログ開始にあたって)

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 1983年10月2日。ある日曜日の朝、ひとり(1匹)の宇宙生物が姿を現した。その名はペットントン。伝説的なテレビ『ペットントン』(1983)のスタートである。

 前年にスティーブン・スピルバーグ監督のアメリカ映画『ET』(1982)が全世界で大ヒット。テレビ、レコード、グッズなど一大ブームを巻き起こした。子どもたちと宇宙生物との交流と友情を描いた感動のヒット作を意識して『ペットントン』は制作された。時期的に『ペットントン』が『ET』に触発されたのは明らかである。だがその内容は、本家とは似ても似つかない奇天烈なものだった。

 宇宙生物(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)がやって来た、主人公の小学生(高橋利安)の家では、強烈な祖母(斎藤晴彦)と母(東啓子)とが確執して乱闘が絶えない。父(佐渡稔)は板ばさみでおろおろし、ときには自ら参戦する。

 主人公はリア充で友だち以上恋人未満の彼女(川口智子)がいるが、一方でゲイの同級生(飛高政幸)に愛され手を握られたりする。彼女に対しては変な転校生(玉木潤)がストーカー的怪行動を繰りかえす。

 あくが強いのは人間だけではなく、シューマイとチャーハンが駆け落ちしたり、夢を砕かれた豆腐が激怒したり、テレビや電球といった家電製品が風邪をひいたり…言葉を絶するトンデモ世界が繰りひろげられる(それをアナログな実写で大真面目に映像化している)。

 全話の脚本を執筆したのは、アニメ『忍たま乱太郎』(1993〜)や映画『オペレッタ狸御殿』(2005)などでも知られる浦沢義雄。同じ時間帯(毎週日曜朝9時)の前作『バッテンロボ丸』(1982)でもメインライターを務めているが、『ロボ丸』でも浦沢の非凡かつ奇矯なセンスはぎらついていた。そして浦沢脚本のメソッドは、この『ペットントン』にてくっきりと確立され、開花することになる。

 前々作『ロボット8ちゃん』(1981)のスタート時点では棄て枠と言われて2.8%だった視聴率は『8ちゃん』『ロボ丸』の間に伸びていき、『ペットントン』では遂に20%を突破。最終話の翌日に放送されたスペシャル版では香港ロケが実現した。

 ペットントン』が始まる半年前に放送開始されて大ヒットしたのが、朝のテレビ小説『おしん』(1983)である。おしんの子ども時代を演じた小林綾子が引っ張りだこの人気を博し、厳しい女中役・丸山裕子の熱演にも注目が集まっていた。『ペットントン』のエンディング主題歌(「一度だけの魔法」)は小林氏が歌唱しており、ペットントンの主演声優は丸山である。『おしん』コンビが同時期にこちらでも活躍しているのであった。先述のスペシャルでは小林がゲスト出演し、丸山演じるペットントンと同じ画面での共演が実現している。

 サウンド・オブ・ミュージック』(1965)、『スター・ウォーズ』(1977)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1997)など公開時に大ヒットしてその後に長い年月を経ても愛される作品もある。だが、あれほど莫大な売り上げを稼ぎ出した『ET』は、いつしかすっかり忘れ去られてしまった。そして本家と同様に、日曜日の朝としては異例の視聴率を誇った『ペットントン』もいまは口の端に上らない。ソフト化にも再放送にも恵まれないこの快・怪作の面白さを、少しでも伝えたいと念願する。

 私見によれば、『ペットントン』は概ね3つの時期に大別される。畑家の面々など大人中心のホームドラマ仕様の第1期(第1〜11話)、小百合やガン太など子どもたちの比重が大きくなる第2期(第12〜29話)、子どもだけでなく無生物も活躍しトンデモ度の高まる第3期(第30〜最終話)である。

 筆者は『ペットントン』のころに生まれてはいたがこのころの記憶はほぼない。しかも貧しいわが家には、テレビすらなかった。同じ日曜朝9時の時間帯(不思議コメディーシリーズ)では、後年に放送された『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)や『うたう!大龍宮城』(1992)はよく覚えているけれども、『ペットントン』については全く無知だった。2014年、動画サイトの有料配信でようやく、初めて見たのだった(こんなに年をとってからでなくもっと幼いころに触れたかったと思うが)。ソフト化の見込みもなさそうで、配信も終了してしまうゆえ、『ペットントン』について本ブログにいろいろと備忘的な意味で書き留めておきたい。見終えたばかりでしかも当時の記憶がなく、それゆえ事実関係の不備や浅薄な記述もあろうが、ミスに気づかれた方は指摘していただけるとありがたい。

 

 2014年、祖母セロリ役の斎藤晴彦氏が逝去された。斎藤氏の怪演は、おそらく『ペットントン』を見た誰もが話題にするであろう。

 放送終了から30年の歳月が流れているだけに、斎藤氏の他にペットントンスーツアクター・高木政人氏、野原動物病院院長役の奥村公延氏、オミッチャン役の福原一臣氏、ジャモラー役の八代駿氏、ミッチャン星大統領役の渡部猛氏、オープニング主題歌を唄うアイ高野氏、原作の石ノ森章太郎氏、平山亨・木村京太郎プロデューサー、加藤盟監督など鬼籍に入った出演者・スタッフも目立つ。謹んで哀悼の意を表する。

 本ブログでは、まず全話のストーリーガイドをアップし、つづいてロケ地探訪なども行っていきたい。情報をお持ちの方、ご意見・ご感想がおありの方はお寄せいただけると幸いです。

 筆者は他にも映画・舞台・山田太一などについて気ままに書いたブログも運営中であり、ご興味のある方はそちらも参照していただきたい。

 私の中の見えない炎 http://ayamekareihikagami.hateblo.jp