『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第38話「テレビは注射がお好き!」(1984年6月24日放送 脚本:浦沢義雄 監督:冨田義治)

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【ストーリー】

 ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)は、セロリ(斎藤晴彦)の部屋の掃除や階段の雑巾がけをやらされていた。「やり直しだ」などと威張るセロリに、ペットントンは怒る。

セロリ「トマトさんに言ってね、今夜のペットントンのおかずはなしにしましょうね」

 ペットントンは、セロリの顔を雑巾で攻撃。ふたりは叩き合いに。その後、洗濯物を干しているペットントンは、隣りの奥さんと買い物に行くというトマト(東啓子)に留守番を命じられる。

ペットントン「まったく人使い荒いなムニェ」

 ペットントンが「どっこいしょムニェ」とソファにすわってテレビをつけると、天気予報が映る。

テレビの気象予報士「晴れときどき曇りです、げほげほ」

 恋愛ドラマの男女は、橋の上でくしゃみを連発。さらにCMタレントも風邪気味。ペットントンが友だちの輪に理由を訊くと、テレビが風邪をひいたのだと判明。テレビに触ると熱い。

ペットントン「テレビ、熱あるムニュ」

 

 ペットントンは、電気屋にテレビを持っていく。

ペットントン「このテレビ、風邪引いたムニェ」

 電気屋(大島宇三郎)は、「からかってるのか!?」と、かつらを外して怒る。その頭は禿げていた。

 

 畑家へ戻ったペットントンは、テレビの熱を測り、氷枕を当てて看病する。帰宅したネギ太(高橋利安)は驚く。 ネギ太は公園で、小百合(川口智子)、ガン太(飛高政幸)にその話をした。

ガン太「あいつ少し、頭が」

小百合「うちのおじいちゃんに診てもらいましょうよ」

 

 ネギ太たちはペットントンを縛って野原動物病院に無理やり連れていく。悪いところはないが2、3日入院させようかと言う野原院長(奥村公延)。

小百合「早く良くなってね!」

ガン太「大丈夫だよ。こいつ、根がバカだからすぐ立ち直るよ」

 怒って暴れるペットントンは、ネギ太たちと院長を縛り上げて脱走。

 

 ペットントンが帰宅すると、熱が上がったテレビは真っ赤になっていた。しかも他の家電製品にも風邪がうつり、電球は点滅して苦しみ、冷蔵庫は咳き込んで扉がバタバタ開き、炊飯器や掃除機はくしゃみをする。ペットントンの看病に、テレビの中の人びとはくしゃみしながら、「ありがとう、ペットントン」と感謝。テレビは汗ばんでいた。

 同情したペットントンは友だちの輪のお告げで、テレビ局へ行って、風邪退治のためにテレビの中へ突入する。

 

 野原動物病院で、縄が解けたネギ太たちは野原院長を無視して出て行く。

院長「きみたち、何をしてるんだ。早く私の縄もほどいてくれ。きみたち、私を見捨てるんですか。小百合ちゃん、小百合ちゃーん」

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 畑家へ帰宅したネギ太たちがテレビをつけると、画面の中の天気予報でペットントンが風邪のウィルス(山崎清)を追いかけていた。驚くネギ太たち。

ガン太「ペットントン、お前、そんなところで何してるの」

 ウィルスはテレビの外へ飛び出してきた。

ウィルス「風邪、参上」 

 ネギ太たちは気絶。ペットントンも外へ飛び出す。ペットントンは「起きるのムニェ」と3人を起こすが、起きた3人は、あれは夢だと言って信じない。ウィルスとペットントンは、またテレビの中へ飛び込む。

小百合「私たち、やっぱり何か悪い夢でも見てるのよ」

 茫然自失のネギ太たちは「ははははは…」と棒読みで笑いながら家を出て行く。

 ペットントンとウィルスは、テレビに出たり入ったりして死闘を繰りひろげる。

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 商店街ではトマトが隣りの奥さんと談笑していた。

トマト「うちのお母さん、毎晩ヒゲそるの」

隣りの奥さん「え、冗談でしょ」

 ネギ太たちがふらふらと歩いてきて、八百屋の野菜をかじっては放り出して野菜占い。

ガン太「病気だ、病気じゃない、病気…」

ネギ太「信じる、信じない、信じる…」

小百合「夢、夢じゃない、夢…」

 「何やってるの、あんたたち」と、驚いて止めるトマト。

 

 仕事帰りのナス夫(佐渡稔)がバスから降りると、ネギ太たち3人は葉っぱをむしっていた。

ネギ太「信じる、信じない、信じる…」

 驚くナス夫。

ナス夫「何やってるんだ、お前たち。小百合ちゃんもガンちゃんも止めなさい」

 一向に止めない3人。

 

 畑家でナス夫とトマトが「子供たちが大変なの」と慌てていた。

ナス夫「ペットントンはどうした?」

トマト「ペットントンなら知ってるかもね」

 ナス夫とトマトの声を聞いたペットントンは、テレビから飛び出してきた。やはりふたりも気絶。

 

 ペットントンはタイムステッキで時間を戻し、玄関にUターンの標識を置いてネギ太たちが外に出ないようにした。そしてウィルスをつかまえる。

ペットントン「早く消えちまえ」

ウィルス「はい、消えます」

 ウィルスは消えるのを目の当たりにしたネギ太たちは、テレビが風邪をひいたことを信じた。

 

 ナス夫とトマトが帰ってくると、ペットントンとネギ太たちがテレビに布団をかけて体温を測り、掃除機や冷蔵庫やトースターに氷枕を当てていた。顔を見合わせるナス夫とトマト。  

【感想】

 3度目の無生物路線。前2話(第30話第36話)では食い物ねたが好きな浦沢義雄先生らしくシューマイや豆腐が活躍したが、今回はテレビなど家電製品が風邪をひくという趣向(浦沢脚本の無生物ドラマはいつも、無生物が動き出す理由など全くない)。今回も、家電製品が体調不良に苦しむさまを実写で映像化しており、本物の冷蔵庫や掃除機に氷枕を当てるのが傑作! 前2話のほうが世評は高いけれども、それだけに筆者は事前にちょっと期待し過ぎてしまった部分があり、予備知識のない今回のほうが驚きもあって愉しめた。

 『ペットントン』では、後年の浦沢脚本『どきんちょ!ネムリン』(1984)や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)のように無生物が喋るわけではなく(この時点では喋らせるという発想がなかったのか)少々食い足りないのだが、今回はテレビの出演者が代わってテレビの意志を伝えている。

 テレビに布団をかけて体温を測り、掃除機や冷蔵庫に氷枕を当てるシーンが笑えるけれども、チャーハンや豆腐のように本物を使って実写化するのがこのシリーズの眼目で。家電製品ねたと言えば『シュシュトリアン』の第21話「いじけたジューサー」では家電製品と自販機の抗争という、よりスケールアップしたドラマが展開された(もちろん実物である)。

 主人公がテレビの中に突入して戦ったり騒ぎを起こしたりするアイディアは不思議コメディーシリーズのスピンオフ的な『TVオバケてれもんじゃ』(1985)にて全編の主題になっている。

 家電製品に目を奪われるが、錯乱状態に陥ったネギ太たちが八百屋の野菜をむしるシーンは、さりげなく怖い。 

 序盤の電気屋のシーンでは、怒ってカツラを取ると禿げているおじさん役で大島宇三郎氏がわずかに登場。東映特撮では『星雲仮面マシンマン』(1984)の後半の敵・トンチンカン役や『シュシュトリアン』の第36話「怪人・真実一郎」のゲストなどの仕事があり、特に『マシンマン』は強面なのにコミカルで印象深い。 

 風邪のウィルス役の山崎清氏は第16話でもギャング役で登場したほか、不コメでは『バッテンロボ丸』(1982)や『ネムリン』のレギュラー、先述の『てれもんじゃ』の第6話「恐怖の音声多重総天然色カラーボーイ」などでスーツアクターを務めている。今回、居間とテレビでペットントンと風邪とが乱闘するシーンでは、ペットントンスーツアクター・高木政人氏と山崎氏が狭い室内でさぞやりにくいだろうにコミカルな殺陣をやってのけ、その技術には驚嘆する。

 同時撮影の第37話も今回も子どもたちメインで(メインの3人は両方で同じ服装)、後期の『ペットントン』の中でも特にこの時期は子どもたちの活躍がつづく。みなうまいのだが、特にガン太役の飛高政幸氏は驚く演技が秀逸で感嘆。小百合は目を開けたまま気絶していた。

 劇中の恋愛ドラマには東映作品定番の石神井公園の橋が登場。  ネギ太たちが野菜をむしる八百屋さんは武蔵関に当時あった店舗で、畑家のロケ地のすぐそばに位置していた。