『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第1話「ETのふしぎなオトシモノ」(1983年10月2日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

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 ある夜、畑家の自室で畑ネギ太(高橋利安)は作文を書いていた。

ネギ太「ぼくが宇宙でいちばん尊敬する人は力道山です」

 すると地震が起こり、地球儀は回り、電球は点滅し、窓からまばゆい光が差し込む。ベランダの向こうに見える黄色い光球。

 ネギ太がそっと窓を開けて近づくと、畑家の庭にUFOが降り立っていた。UFOは大きな袋を棄てて、飛び去って行く。縄ばしごで庭へ降りるネギ太。すると袋の中から緑色の宇宙生物ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)が現われた。ネギ太は気絶。

ペットントンペットントン?」

 翌朝、ネギ太が「夢か!」と目覚めると、ペットントンがベランダを掃除していた。ネギ太が驚くとペットントンはウィンク。父のナス夫(佐渡稔)も驚愕し、ふたりは押し入れに逃げ込む。ペットントンが押し入れを開けるとナス夫とネギ太は唄い始める。

ネギ太・ナス夫「♪あれ鈴虫が鳴いている〜」

 

 母のトマト(東啓子)は朝食の準備中。味見して「デリシャス」とにっこり。

トマト「あ、年寄りは少なくていいの、べー」

 トマトは、ネギ太の祖母で姑のセロリ(斎藤晴彦)の料理を置き換える。

 

 セロリは和室で木魚をガンガン叩いてハーモニカを吹いていた。

セロリ「サンキュー!」

 

 ナス夫はペットントンをベランダから下ろして、棄てようとする。心配するネギ太。

ネギ太「父さん、こいつを棄てたらUFOのETが怒って、地球を攻めて、スターウォーズみたいになっちゃうんじゃないの?」

ナス夫「ネギ太、よく聞きなさい。父さんは、うちでこの化け物を飼うより、宇宙大戦争になったほうがいいと思うよ

 

 口笛を吹きながら食卓に着いたセロリ。料理を入れ替える。そしてメガフォンで外へ絶叫。

セロリ「ご町内のみなさま、本日の畑家の朝食は昨日の食べ残しのスキヤキと味噌汁とおしんこだけでございます!」

 トマトが「お母さま!みっともないからやめて」と止めると、セロリはメガホンをトマトに渡して庭で「ご町内のみなさま」と執拗に叫ぶ。

トマト「こんな生活、もう厭」

 喜ぶセロリ。

 トマトが廊下で涙ぐんでいると、ナス夫はキスを迫る。

ナス夫「アイラブユー」

トマト「朝から何考えてるの!」

 トマトは階段を上がっていく。セロリはがつがつ食べる。

 

 ネギ太とペットントンは川原にいた。ネギ太は「飼主募集中 心のやさしい人に限る 血統書ナシ!!」と書かれた紙をペットントンに貼る。

ネギ太「ぼくのせいじゃないよ。スターウォーズになっても、ぼくの責任じゃないからね」

 川原の草を食むペットントン。「じゃあ」とネギ太はペットントンを放置して駆け出すが、振り返るとペットントンの姿がない。ペットントンは離れたところで、雑草を食べたせいで苦しんでいた。ネギ太は近所の野原動物病院へつれていく。

ネギ太「小百合ちゃん、開けて!早くしないとスターウォーズなんだよ」

 看護婦のトモコ(小出綾女)が出てくる。

トモコ「何よもう、うるっさいわね」

 トモコはペットントンを見ると髪を逆立てて気絶。

 

 ナス夫は「♪つれて逃げてよ」と唄いながらパチンコ。近くの台には野原院長(奥村公延)が。何故かハイなナス夫は「出ませんよ! 責任者! 出ないよー」と怒鳴る。

院長「畑さん」

ナス夫「あ、野原先生」

院長「あのね、もう少しパチンコ静かにやってもらえませんかね」

 

 野原院長は不在なので、病院では孫の小百合(川口智子)がペットントンを診察。

小百合「ネギ太くん、大丈夫よ。私に任せて。動物大好き少女なんだから」

 小百合は聴診器を置く。

ネギ太「どう、判った?」

小百合「ぜーんぜん。ま、あんまし心配しないで。もうおじいちゃんも帰ってくることだし、ジュース飲みましょ」

 目を覚ましたペットントンは、腕を伸ばして自分に注射。痛かったのか「ペーペトペトペットントン」と騒ぎ出す。檻の犬やネコ、うさぎなども昂奮。ペットントンが「ムニムニ」などと話しかけると、動物たちは静まる。ペットントンは動物語が話せるのだった。顔を見合わせるネギ太と小百合。

 

 橋のたもとにいるネギ太とペットントン

ネギ太「これからどうしよう。お前を棄てればETが攻めてきてスターウォーズになって地球が滅びちゃうし」

 そこへパチンコの景品を抱えたナス夫が上機嫌で歩いてくる。

ナス夫「ネギ太、お前!」

 

 野原院長は動物語のことを小百合から聞かされた。

 

 ナス夫は、ペットントンをトラックに載せて棄てようとする。

ネギ太「やめてよ、父さん!」

ナス夫「いいから、いいから」

 ナス夫は宇宙人が攻めてきても「戦えばいいじゃないか。父さんは戦う」と言い出す。

ネギ太「父さん、もうちょっと真面目に、地球や宇宙のことを考えられないの!?」

ナス夫「地球が何だ。宇宙が何だ。父さんにとっては、家庭を守ることがいちばんなんだ」

 ナス夫がネギ太を説得しているうちにトラックは動き出す。

 

 だがペットントンを載せたトラックは、結局は畑家の前に来た。トラックの運転手(内田修司)が畑家の向かいのおじさん(木村修)に道を訊いている間に、ペットントンは荷台を降りて「ペーットントン、ペーットントン」と畑家の中へ。

 トマトは「セロリ、覚悟」と空手の練習をしていた。トマトをつつくペットントン

トマト「何よネギ太」

 ペットントンを見たトマトは気絶。ペットントンは「ムニェ」とトマトの腕に触れる。

 セロリは自室でエアロビクスをしていた。ペットントンも入ってきて踊る。気づいたセロリは「うわー」。ペットントンも「ムニャーハー」。セロリは「ヘルプミー」などと言ってほうきとスプレーでペットントンを襲う。トマトは保健所に電話しながらまた気絶。セロリはペットントンを追いかけながらトマトの顔にスプレーをかける。

 

 ネギ太とナス夫は戻ってくる。

ナス夫「父さんだってつらいんだ。そりゃ父さんだって地球を救いたい。しかし、そういうことは、自衛隊とかアメリカやソ連の軍隊に任せておけば」

 ナス夫はごまかすようにまた「♪あれ鈴虫が」と唄うが、ネギ太は駆け出す。

 

 畑家では乱闘がつづいていた。

トマト「自衛隊、出動せよ。ただちに出動せよ」

 セロリはほうき、トマトは空手でペットントンと戦う。帰宅したネギ太とナス夫。

ネギ太「やめろ!ぼくのペットントンに手を出すな」

 セロリは「この化け物を買うことを許可したのはお前だね!」とナス夫を怒鳴る。

ナス夫「違います」

トマト「あなた!」

ナス夫「何だその顔は」

セロリ「出てけ出てけ!」

トマト「異議なーし!」

ナス夫「異議なしだって? トマト、そんな」

トマト「私はお母さまといっしょの意見です」

ナス夫「お前」

セロリ「出てけったら出てけー」

 白けた顔のネギ太。ナス夫はおろおろ。出て行けと言うトマトとセロリ。

ネギ太「ペットントン、ぼく、このうち出て行く。地球を守るために、この家を出てお前と暮らす。ぼくには地球を守る義務があるんだ」

 ネギ太は部屋の顕微鏡などをリュックに詰める。階下からはナス夫の「助けて」という絶叫が。

 

 リュックを背負ったネギ太は庭で「おばあちゃん、さようなら。父さん母さん、さようなら。行こう、ペットントン」と静かに離別の挨拶。ペットントンは風呂敷を背負い、ネギ太と行こうとする。そこへナス夫の「話せば判る!」との声が。

 ナス夫はベランダで、セロリとトマトに追いつめられていた。勢い余ったナス夫は転落。ペットントンは時間を巻き戻すことのできるタイムステッキを使い、腕を伸ばした。ペットントンの腕は滑り台のような形になって、ナス夫を救う。

ネギ太「父さん、大丈夫!?」

 そこへ小百合と野原院長が現れる。

小百合「おじいちゃん、いたわ!」

 野原院長は動物語を解するペットントンを「動物学会の貴重な宝です」と擁護。

セロリ「ネギ太、ペットントンをうちで飼うことを許可します」

ネギ太「ほんと!?」

セロリ「ナス夫。トマトさん。なんか文句ありますか!?」

トマト「あたしはお母さまさえよろしければ……あたし絶対世話しないから」

 こぶのできたナス夫は「よかったなあ。これで宇宙大戦争にならずに済んだ」とへらへら。

ネギ太「ありがとう、おばあちゃん。ありがとう、母さん。ありがとう、父さん」

ペットントン「ありがトントントン、ネギ太〜」

 ネギ太は「ペットントン、お前喋れるの?」と驚く。

 ペットントンは膨らみ、ネギ太といっしょに浮かび上がる。唖然と見ているナス夫、トマト、セロリ、野原院長。微笑む小百合。

 陽が沈むころになっても、ペットントンとネギ太は町の上を浮かんでいた。 

【感想】

 基本設定の紹介篇たる第1話。オープニングのタイトルバックではペットントンの腕、タイムステッキ、動物語、喜ぶと膨らんで飛行などペットントンのメインスペックは概ね紹介されている(友だちの輪は次回)。

 不思議コメディーシリーズで先行する『ロボット8ちゃん』(1981)の第1話「スーパーおじんのバラバラマン」(脚本:大原清秀)では人間とロボットとが対峙する世界観が説明され、主人公と悪役との戦いが描かれた。つづく『バッテンロボ丸』(1982)の第1話「地球ノミナサン コンニチハ」(脚本:浦沢義雄は架空の町が舞台であるゆえか、町の面々が重点的に紹介されて主人公もゆるく活躍した。対して今回は、周縁人物は登場しつつもあくまでネギ太・ナス夫・トマト・セロリといった畑家が中軸で、本作のホームドラマ志向が宣言されている。「前口上」でも述べた通り、畑家が最終話まで一貫してメインというわけでもなく子どもたちや無生物が活躍する時期もあるのだが、1980年代という家族論のかまびすしかった時代は本作にも影を落としていると推察される。経済的に豊かな家庭の荒廃を扱った山田太一脚本『それぞれの秋』(1973)や『岸辺のアルバム』(1977)、『沿線地図』(1979)を経て、80年代の森田芳光監督『家族ゲーム』(1983)では崩壊する家族の抗争がコミカルかつ無気味に描かれた。本作が同年の『家族ゲーム』に影響されたと直ちに断じることはできないけれども、コメディタッチでサラリーマン家庭の軋轢を執拗に描く点には同時代性を感じずにはいられない(この後の『どきんちょ!ネムリン』〈1984〉や『勝手に!カミタマン』〈1985〉では家族の諍いが微妙に後退する)。

 ペットントンに驚くネギ太とナス夫は、押し入れに入って「虫のこえ」を唄い出す。いささか狂気を感じさせる先制パンチ。

 朝っぱらからいきなりメガホンで叫び始める祖母セロリもすごいが、キスを迫るナス夫も…。ちなみに浦沢義雄脚本による『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第22話「父さんに恋人!?」や『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第51話「年末の納豆マン」の父は「こういうときこそ!」などと言って女性を押し倒そうとしていた。この2作で父を演じたのは斉木しげる氏で、ナス夫役の佐渡稔氏よりいやらしそうな風貌で忘れ難い。 

 ヒロイン・小百合の家は動物病院で、祖父が院長(両親はいない)。「動物大好き少女」を自称しているけれども、以後そのような描写は少なかったように思われる。小百合はタイトルバックにも登場しているが、この時点では毎回顔を出す友人という程度のポジションだったのだろう。それが中盤以降に出番も増え、レギュラー陣やゲストとの応酬が多くなり、動物と絡める余裕も必要もなくなったと推察される。

 ネギ太が川原にペットントンを棄てようとするシーンでは、エンディング主題歌「一度だけの魔法」の哀切なインストゥルメンタルが流れる。『ペットントン』と言えばトンデモ設定や演出が話題になるわけだが、そういった先入観で見るとこのシーンに漂う哀愁には少々驚いてしまう。トンデモとは一転、時おり見られるペーソスのコントラストも本作の特色と言えよう。不思議コメディーシリーズ初期において本作のしっとりとした悲哀は、特に際立っている。

 後年の『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)や『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)などにも、エンディング主題歌のメロディを流してしみじみした情感を醸すシーンがある。「一度だけの魔法」は、その先鞭をつけたのだった。

 同じ東映制作の仮面ライダーシリーズを見ると第1話は通常のエピソードより予算を増やしてセットやアクションに力を入れているのが判るが、『ペットントン』など不コメシリーズはつかみであっても扱いはさほど変わらないように思える。

 長い助監督生活を経て前作『バッテンロボ丸』(1982)にてデビューした坂本太郎監督が本作ではメインディレクターに就任。初メインであってもよい意味で力んでいない淡々とした演出が心地よく、このシリーズに適している。

 キャスト陣のうち佐渡稔、斎藤晴彦奥村公延の各氏は過去に不コメシリーズに出演済みで、1話目で既に悪乗りの感がある。トラック運転手役の内田修司氏は第35話の救急隊員役でも登場する。

 主なロケ地は武蔵関駅周辺。本作のメインフィールドで、畑家の外観や商店街、駅舎も登場。頻出の坂道や武蔵関公園も出てくる。不コメシリーズでは他に『美少女仮面ポワトリン』や『うたう!大龍宮城』(1992)などでも使われた。 

 今回は無難な紹介編であるけれども随所に切れた台詞・設定があり、今後の展開を期待させる。

 

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