第4話「お父さんはほとんど病気」(1983年10月23日放送 脚本:浦沢義雄 監督:田中秀夫)
【ストーリー】
駅前で小百合(川口智子)といっしょに自己紹介のポスターを貼るペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)。電柱のてっぺんに貼ると小百合は「あれじゃ高すぎて誰も見えないわよ」と注意。
「ペットントンは優しい宇宙生物です」などと書かれたポスターを読む主婦(金子早苗)、小学生(和田求里)、サラリーマンたち。
道ゆく人はペットントンに驚かなくなった。
小百合「ポスターの効き目、あったみたい」
小百合「これで街の人、ペットントンを見ても誰も驚かないわ」
ペットントン「ムニ…」
小百合「あら、私の言うこと信用できないの」
ペットントンは「ムニムニェ」と行ってしまう
小百合「失礼しちゃうわ」
そこへ看護婦のトモコ(小出綾女)が偶然「小百合ちゃーん、もうすぐごはんですよ」と駆けてくる。トモコはポスターに描かれたペットントンのイラストを見ると、やはり髪を逆立ててひっくり返る。
小百合「どうしても合わないって性格の人、いるのよねえ」
夕方6時、畑家ではネギ太、トマト(東啓子)、セロリ(斎藤晴彦)、ペットントンが食卓を囲んでナス夫(佐渡稔)の帰りを待っていた。トマトやネギ太は待ちくたびれて食べようとする。
セロリ「トマトさん!ナス夫が帰ってくるまで待ったほうが!」
トマト「はい」
セロリ「ナス夫が帰ってくるまで待ったほうが!」
トマト「それもそうですね」
ペットントンはネギ太のおなかを押さえて「がまんがまん」。
ネギ太「判ったよ!」
だが7時になっても帰ってこない。セロリとネギ太は食べようとする。
トマト「お母さま!せっかくここまで待ったんですから」
セロリ「待てばいいんでしょう、待てば!」
「ネギ太。がまん、がまん」とまたなだめるペットントン。
ネギ太「判ったよ!」
8時になって、ドアの開閉音が。
セロリ「ナス夫ですよ。きっとナス夫ですよ」
スーツ姿のナス夫(佐渡稔)が深刻な顔で帰宅。
ナス夫「ごはんいらない」
ずっこける3人。
ナス夫「課長のバカヤロー!」
暗い部屋でひとり叫ぶナス夫。セロリとトマトは様子を見に行く。
セロリ「どうやら役所の課長に叱られたみたいですね。へへへへへへ」
トマト「お母さま。笑ってる場合じゃ」
セロリとトマトは、ナス夫を慰める役割を押しつけ合う。
セロリ「あなたナス夫の妻じゃありませんか」
トマト「お母さまこそナス夫さんの母じゃないですか」
セロリ「わたしゃ母のんきだよ」
トマト「ずるい」
こけるトマト。そこへ「ムニェムニェ」とペットントンが。
セロリ「この役目は」
トマト「賛成!」
セロリとトマトはペットントンを強引にナス夫の部屋に押し込む。
飲み屋でペットントンは「ペットットットットットット」とナス夫にお酌する。
ナス夫「そうか、母さんとトマトが私のことを心配して」
ナス夫もペットントンも痛飲。
酔ったナス夫とペットントンは夜の道をふらつく。
ナス夫「ペットントン、働くってことはな、働くってことはな」
ナス夫はもう一軒飲んでいくかと誘い、ペットントンは「ヒック」。今度は屋台で飲むナス夫とペットントン。
ナス夫「課長が何だ! 決めた。畑ナス夫はあしたから仕事行かない!」
ペットントンは「ムニェムニェ」とナス夫をさする。
翌朝、ペットントンは居間で寝ていた。セロリとトマト、ネギ太は慌てて起こす。
トマト「ナス夫さんがいないのよ」
ネギ太「どこ行ったか知らない!?」
セロリ「夕べいっしょだったんだろ!」
トマト「知ってるでしょ!」
トマトとセロリはペットントンをこづく。
思い詰めた顔のナス夫は、野原動物病院の前で座禅を組んでいた。パジャマ姿で出てきたトモコ。
トモコ「畑さん、こんな朝早くからいったい何があったんです?」
ナス夫「看護婦さん」
トモコ「はあ」
ナス夫「私を病気にしてください!」
トモコ「畑さん、落ち着いてくださいよ。ここは動物専門病院なんですよ。人間を診察することは…」
ナス夫「そこをなんとかお願いします、看護婦さん」
困惑するトモコ。
畑家にてナス夫は表彰状のような診断書を読み上げる。
ナス夫「野原動物病院の診察の結果、畑ナス夫はジステンバーと診断されました。よって、きょうは仕事を休みます」
トマト「ジステンバーって犬の病気じゃ…」
ナス夫「野原動物病院が診察したんだから間違いありません!」
驚くトマトたち。
ナス夫「私は病気なんです。そうだ、重い病気かもしれない。だとしたら仕事を辞めなくては。そうだ、仕事を辞めよ!」
みな唖然。
ネギ太「父さん、本当に仕事辞めるつもりなの」
重い空気が立ち込める。
学校へ出かけるネギ太にナス夫は語りかける。
ナス夫「うちは父さんがしっかりしてないから、お前がしっかりしなくちゃいけない。しっかり勉強してくるんだぞ。ネギ太、父さんみたいになるんじゃないぞ」
やるせない顔のネギ太。
ペットントンは「働くトントントン」とつぶやきながら掃除機をかけていた。すると窓の外からジャモラー(声:八代駿)が襲来。
ジャモラー「ペットントンの髪の毛ごちそうジャモラー」
壁にぶつかったジャモラーはやがて姿を消す。
皿洗いをしているトマトの前に、笑みを浮かべたセロリが。
セロリ「ちょっと遅くなりますからね」
トマト「どちらへ」
セロリ「働きに」
セロリは新聞を指して「女子プロレスラー募集中!」とジャンプ。止めるトマト。
セロリ「トマトさん! じゃあいったい誰が働けばいいってんですか!?」
ペットントンが「ジャモラー」と来るが、ふたりの空気を察する。
トマト「あたしが、働きます」
新聞を見るトマト。
トマト「美人モデル募集中。素人大歓迎」
セロリ「トマトさん、これ私が働きます」
トマト「あら、ちょっと、お母さま、年がいきすぎてます!」
セロリ「私に合ってるんですよ」
トマト「それは私が!」
つかみ合うふたり。ペットントンは友だちの輪を取り出す。
セロリ「手をつなぐ。目を閉じる」
ペットントンが働けばいいというお告げが出た。
公園のベンチでナス夫は「きょうはのんびりするか」と寝そべる。
セロリは「社長、社長。おたくで働かさせてくれませんか!?」「奥さん、奥さん! まあお綺麗。あれ(ペットントン)を雇いませんか?」などと道行く人に迫っていた。
セロリ「奥さん、お安く働きますよ!!」
川沿いでぼーっと釣りをしているナス夫。「あなたっ!」とトマトが現れる。
ナス夫「私は病気なんだ。私はジステンバー。ワンワン」
犬になりきって四つん這いになるナス夫。そこへセロリも。
トマト「あらお母さま。ペットントンは?」
セロリ「まあ何とかひとりで就職口を見つけるでしょう」
ナス夫はワンワン言いつづける。
セロリ「お黙り。お手」
“アルバイト募集中” のカードを掲げて新宿をさまようペットントン。
カナリアが飛んできて、ペットントンに止まり、また飛び立った。そこで偶然ヨーコ(若林一美)に会った。ヨーコは「だーれだ」とペットントンの目を押さえる。
ヨーコ「忘れたの? 冷たいのね」
ペットントン「ヨーコトントン」
ふたり仲よくはしゃぐ。
畑家でナス夫は、ものすごい量の洗濯物を顔に投げつけられる。
セロリ・トマト「お願いね!」
「とほほほほほほ」と泣き伏すナス夫。
ビル街の公園で話すヨーコとペットントン。
ヨーコ「え、ペットントンが働いて一家4人の面倒見るの?」
ペットントン「トントン」
ヨーコ「判ったわ。あたしがペットントンのアルバイト見つけてあげる」
ペットントン「ムニュ」
穏やかにお茶を飲むセロリとトマト。ベランダで洗濯物を干すナス夫。
ナス夫「どうして、どうして、病気の私が洗濯しなくちゃいけないの!」
ナス夫は洗濯物を叩きつける。いつのまにかトマトがいる。
トマト「洗濯が終わったら、お掃除がありますから」
ペットントンは青果市場でアルバイトに励む。懸命に野菜を運ぶペットントン。見ているヨーコ。
ヨーコ「これなら仕事はかんたんだし、ペットントンにはぴったりね。あれ?」
だが草食のペットントンは、だいこんなど野菜をむしゃむしゃ食べてしまった。「これは売り物だぞ」と怒るスタッフ。嘆息するヨーコ。
ペットントン「おなかすいてたの。ごめんねトントン」
雑巾掛けをするナス夫。背後で怖い顔のセロリが監視。「ただいま」とネギ太が帰宅。
ナス夫「おおネギ太。助けてくれ」
ネギ太「やだよ。ぼく、父さんみたいになりたくないから、これから勉強するんだ」
「とほほ」と泣きそうなナス夫をセロリがほうきでひっぱたく。
ペットントンは屋根のペンキ塗りに挑む。下で心配そうに見ているヨーコ。だがペンキをこぼして「どうかね」と見に来たおじさん(佐川二郎)にぶっかけてしまう。
ヨーコ「どうやらここもクビね」
川沿いにいるペットントンとヨーコ。
ヨーコ「本当にダメな宇宙生物」
「ムニェ」と悄然となるペットントン。そこへ、幼い女の子(佐々木亜寿加)が泣きながら歩いてくる。
女の子「私のカナリアが逃げちゃったの」
ペットントンは、さっき自分に止まったカナリアを思い出す。急に走り出したペットントンは公園へ。追いかけるヨーコと女の子。カナリアは木の上にいた。
ヨーコ「あ!ペットントン」
たちの悪い子どもが、パチンコでカナリアを狙っていた。
女の子「やめて!」
ペットントンはタイムステッキで時間を止め、向きを変える。パチンコのボールは付近でアイスを食っていたおじさん(若林哲行)の頭に命中。
おじさん「何すんだこの野郎」
子ども「わーっ」
おじさんは子どもを追いかける。だがカナリアは飛んでいった。
ヨーコ「ペットントン、何とかしてあげて」
ペットントンはヨーコにキスを要求。
ペットントン「するトントン、するトントン」
ヨーコはペットントンにキス。膨らんで浮かび上がったペットントンの手に、カナリアは停まる。
ヨーコ「ペットントン、見直したわ。ダメな宇宙生物じゃない。好きよ、ペットントン」
ヨーコはもう一度キスしようとするが、また膨れるといけないで止める。照れるペットントン。
ペットントンが帰宅すると、玄関前でエプロン姿のナス夫が転がってきた。ナス夫は「どうしたらいいんだー」と号泣。
ナス夫「何?」
ペットントン「だからナス夫、外で働けトントン」
ナス夫「ほんとか」
急に元気になったナス夫。
ナス夫「というわけで、私はあしたから社会復帰し、役所に行って一生懸命働きます。ですからうちの仕事はこのペットントンがやります」
ペットントン「ムニェトントン」
さっそくトマトとセロリは家事を命じる。逃げ出すペットントン。
【感想】
セロリの次はナス夫のメイン回で、まだまだ本領発揮という印象はない。不思議コメディーシリーズの『ロボット8ちゃん』(1981)の冒頭では主にロボットと人間との対峙する世界観が描かれ、つづく『バッテンロボ丸』(1982)のそれでは舞台となる町・カリントニュータウンの紹介に重点が置かれた。対して本作では畑家の誰かを中心に問題が起き、そこにヨーコや小百合など外部の人間が絡むというのが初期のフォーマットでホームドラマ志向を明瞭に表している。しかし畑家ばかりではなくペットントンも酔っぱらったり働いたり場面があるなど、ペットントンに何かチャレンジさせる傾向も見られる。ペットントンが民家の屋根に上がっているシーンはあぶなそうに思えてスーツアクター・高木政人氏の奮闘に驚かされた。
今回のタイトルの「ほとんど病気」は性欲が昂じていることを意味する、80年代初頭に流行したフレーズ。今回の「病気」はナス夫の出勤拒否で性欲とは無関係なれど、綺麗な女性にキスされるとペットントンが膨らんで大きくなる設定や第17話・第37話など本作では時おり性的なニュアンスが差し挟まれる。『ロボット8ちゃん』の第3話「僕は悪い子 怪ロボット」では悪人をおびき出すために女性ロボットが街娼まがいの雰囲気を醸すシーンがあったが、80年代のアナーキーな空気に加えて不コメの異形ぶりが伺えよう。
ナス夫役の佐渡稔氏はさすがに上手く、特に犬を熱演するのには感嘆する(ナス夫は第15話でも犬に変身していて、よりリアルな?犬だった)。その点では今回も全編コミカルに押すこともできたはずだが、田中秀夫演出は前回につづきエンディング主題歌を流して、酔いつぶれたり家庭内でつらく当たられたりするナス夫をシリアスなトーンに描いており、シナリオとの齟齬を感じないでもない。田中監督はこの2年前の『ロボット8ちゃん』の第41話「カリント先生希望の注射」などではコミカルに演出しているだけに、今回の措置は不可解である。
序盤でペットントンを一般市民に認知させるためにポスターを貼るという場面があり、意外と珍しい感も(こういうキャラは通常いつのまにか居座ってしまう)。藤子・F・不二雄『チンプイ』(小学館)にて、宇宙から来たチンプイとママを対面させるのに腐心するという展開を思い出した。
野原動物病院院長の本名は野原宏だと判明。野原院長はスケジュールの都合なのか、今回は不自然に登場せず、その代わりに看護婦のトモコが小百合にもうすぐごはんだと告げていたり、早朝にパジャマで玄関に出てきたりして、住み込みでお手伝いさん的な仕事も担っているとおぼしい。前回には野原院長に迫られると思い込む場面もあったが、実は愛人なのかもしれない。
ペットントンが掃除していた部屋の書棚には『エジソン』(ポプラ社)や『坂本龍馬』(学習研究社)、『まえがみ太郎』(偕成社)、当時の少年誌などが並んでいて、いかにも80年代の子ども向け書籍たちでなつかしい。
ペットントンにペンキをかけられるおじさんは『キャプテンウルトラ』(1967)など東映作品に多数出演している佐川二郎氏。不コメでは『バッテンロボ丸』の第31話「どうなる?!恋の三角関係」などがある。
パチンコをぶつけられる男は映画『竜二』(1983)やテレビ『はぐれ刑事純情派』シリーズのレギュラーとして知られる若林哲行氏。特撮ドラマの出演は珍しいかもしれない。
ペットントンと小百合がポスターを貼っていたのは西部新宿線の武蔵関駅周辺。建て変わる前の古い駅舎で、いかにも昭和の香りが漂う。設定上ではポスターによってペットントンが認知されているが、人がやや驚いて見ている様子も映っている。
ペットントンがさまよっていたのは新宿住友ビル付近。セロリが求職していたのは小田急百貨店前。