『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第3話「お月様の向こうへ帰りたい」(1983年10月16日放送 脚本:浦沢義雄 監督:田中秀夫)

【ストーリー】

 夢の中でペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)は若い女性・ヨーコ(若林一美)に会う。

ペットントン「ヨーコトントン」

 ヨーコにキスされたペットントンは赤くなって膨らみ浮かぶ。

 

 セロリ(斎藤晴彦)は自室でコンピュータに向かっていた。

セロリ「ペットントンの性格をこのコンピューターにインプットして、お金儲けの方法を分析する。これで私も大金持ち」

 トマト(東啓子)は「♪うーさぎうさぎ、何見てはねる」と唄いながらお月見の準備。きょうは中秋の名月で、すすきやおだんごをかざって月を眺める日だとトマトはペットントンに説明する。「お月見も知らない?」と観察しているセロリ。

セロリ「ばか!」

 トマトはペットントンにはたきをかけてくれという。

ペットントン「はたきトントン?」

 きたないものからほこりを落とすのだと言われたペットントンがすぐにはたきを振り回すと、トマトは「ここでやったらほこりだらけになっちゃうでしょ」と注意。

セロリ「比較的素直…」

 ペットントンはセロリをはたきで攻撃し、セロリは咳き込む。

 

 はたきを持って公園に来たペットントン。女子高生たち(岡芳美、橋口みどり、小山博美)が空き缶を放り棄てると、ペットントンは「ムニー」とはたきをかける。驚いて悲鳴を上げる女子高生。

 

 歩行者天国をふらふらするペットントン

ペットントン「きたないもの、ほこりを落とすトントン」

 周囲の通行人は好奇の目を向ける。すると「あっちあっち」とさっきの女子高生が警官を連れて来た! 逃げ出すペットントン

 

 居間ではトマトが「これがすすきよ。素敵でしょう?」と生ける。いつの間にか帰宅していたペットントンは「ニハハムニェ」と笑う。

セロリ「ペットントン性格104。意地汚く、草を食べる」

 すすきを食べてしまうペットントン

ペットントン「おいしいトントン」

 怒ったトマト(東啓子)は洗濯もの叩きでペットントンをぶつ。ペットントンは外へ逃げ出すが、トマトは「ペットントンお待ち!」と追撃。だが近所の人が通りがかるとトマトは慌てて笑顔をつくって「こんにちは。秋ねえ」とごまかす。 

 落ち込んだペットントンは野原で悲しげに花を摘んでいた。自転車でヨーコが通りかかる。

 

 セロリはコンピューターにデータをすべてインプットした。

セロリ「あとはこのコンピューターがペットントンを利用したお金儲けの方法を教えてくれるだけ!」

 だがコンピューター(声:高坂真琴)は「ペットントンを使ったお金儲けの方法はなし」と無機質に告げる。セロリは「何だいこのコンピューター。壊れてんじゃないのかい」とコンピュータを殴る。

コンピュータ「イタイ!」

 

 噴水のそばでヨーコは「叱られたくらいでくよくよしちゃ」とペットントンを慰める。

ヨーコ「そのうちペットントンがいてよかったって、役に立つときもあるから」

ペットントン「役に立つトントン?」

ヨーコ「そう。そのときはみんなペットントンペットントンってかわいがってくれるから。地球人って調子いいんだから」

 ペットントンはコスモスの花を「あげるトントン」とヨーコに渡す。「ありがとう」と喜ぶヨーコ。ペットントンはウィンク。

 

 ペットントンは公園をネギ太(高橋利安)、小百合(川口智子)と歩く。

ペットントン「役に立ちたいトントン」

ネギ太「そんなこと、急に言われても」

小百合「そうだ、うちのおじいちゃまのお手伝いすれば?」

ネギ太「え、野原動物病院で?」

 

 野原院長(奥村公延)は「それは大助かりだ。何しろペットントンは動物語が判るんだから」と歓迎。だが看護婦のトモコ(小出綾女)は髪を逆立て気絶。

 

 トマトが「きょうの夕ごはん何にします?」とセロリの部屋へ来ると、セロリはコンピューターを仏壇に縛りつけて折檻していた。

コンピューター「やめて、やめて」

 驚くトマト。

 

 野原院長は「どうしても病名が判らない動物がいるんだよ」とペットントンを犬の檻の前につれて来た。ペットントンは「おなか痛いトントン」と通訳。

院長「やっぱり。私もそうじゃないかと」

 次の犬をペットントンは「おしり痛いトントン」と通訳。

院長「やっぱり。私もそうじゃないかと」

 ペットントンはうさぎなどと話す。

 

 野原院長は寝ているトモコの手を掴み起こす。

トモコ「あ…。先生、おやめになって。いけませんわ、先生。そんなこと、いけませんわ」

院長「何をやっとるんだ。手術だよ、手術」

 

 ペットントンは動物を檻から出してしまう。驚く野原院長。

ペットントン「みんな出たいトントン」

院長「何てことしたんだ!」

 怖がるトモコ。ペットントンは「トントン」と沈む。

 

 ペットントンは公園の池で落ち込んでいた。

ペットントンペットントン、ETに棄てられた宇宙生物。地球でうまくやれない…」

 ペットントンが涙を流しているとジャモラー(声:八代駿)が水中から出現。「ペットントンの髪の毛ごちそうジャモラー」としつこく追ってくる。

ジャモラー「ごちそう待てー」

 

 仕事から帰宅したナス夫(佐渡稔)は、セロリがペットントンを利用した金儲けを企んでいると聞き驚く。

ナス夫「やめさせなさい」

トマト「あなた言ってくださいよ。あたしが言ったって聞くはずないんだから」

 

 ネギ太はだんごや食べものを備えて準備を整える。

ネギ太「ペットントン、しっかりしろよ。そりゃ悲しいこともあるかもしれないけどさ、気楽に生きたほうがいいんじゃないの? どうしてそう暗いの? 暗いの流行んないよ」

ペットントン「ムニェ…」

ネギ太「ペットントン、早くお月さん出るといいね」

 

 セロリは寝そべって「ペットントンを使ってお金儲けをする方法は」と唱える。ナス夫が「お母さん、話はトマトから聞きました」と入ってくる。

セロリ「だったらいっしょに考えとくれ」

ナス夫「え?」

セロリ「お前、私の本当の子どもだろ」

 セロリはいっしょに考えなさいと厳命。

 

 満月を眺めるペットントンとネギ太。

ネギ太「ペットントンのお国には、あのお月さまの向こうにあるのかな」

ペットントン「帰りたいトントン」

ネギ太「ペットントン、いま何て言った!?」

ペットントン「お月様の向こうへ帰りたいトントン」

 ペットントンは「失敗ばっかり」とこぼす。

 

 セロリとナス夫は並んで合掌して寝そべる。

セロリ・ナス夫「ペットントンを使ってお金儲けをする方法は…」

 ネギ太が「ペットントンが月を見ていたらホームシックにかかって帰りたいって!」と駆け込んでくる。セロリはネギ太に「お父さんといっしょに考えていなさい」と告げる。

ナス夫「ネギ太。お前、私の本当の子どもだろ」

ネギ太「まあ一応」

 

 月を見ているペットントンのもとへセロリが「地球はとっても愉しいところ! 陽気に行きましょう。陽気に!」と乱入。ペットントンにはだんごが月に見える。「帰られちゃね、私が大金持ちになれないんだよ」とセロリは月を連想させないようにだんごをすべて四角くする。だんごが四角くなると、ペットントンはいない。

 トマトは台所で月見うどんを準備していた。卵の黄身がペットントンには月に見える。

ペットントン「お月さまの向こうに帰りたいトントン」

 セロリは月見うどんを「こんなもの」とかきまぜてぐちゃぐちゃに。ペットントンの持っていたフライパンも取り上げる。

セロリ「トマトさん、うちにある丸いものを全部集めてきなさい」

トマト「は、はい!」

 セロリとトマトは鍋やら帽子やら炊飯器やらを集める。

 

 セロリの部屋で金儲けの方法を考えているナス夫。

ナス夫「ネギ太、お前も考えてくれたっていいじゃないか」

ネギ太「冗談じゃないよ」

 部屋に入ってきたペットントンは何やらきょろきょろ見回す。そして「ムニェ」とレコードに手を伸ばす。レコードが月に見えた。

ナス夫「トントンもいいが、なんかお金儲けのいい方法はないか」

 ペットントンは友だちの輪を取り出す。ナス夫とネギ太は手をつないで目をつぶる。

ナス夫・ネギ太「ペットントンを使ってお金儲けをする方法は」

 友だちの輪が光る。

ナス夫・ネギ太「ペットントンのキスされると浮かぶ性格を利用して、遊覧飛行会社をつくればいい」

 セロリは「そのアイディア最高」といつの間にか部屋へ。「もうかりそう」とセロリは調子づくが困惑した様子のペットントン

 花火が上がり「ペットントン遊覧飛行会場」の看板。ペットントンはゴンドラの上に縛りつけられ、乗った客は「大丈夫かな」と懐疑的。

 並んだ客たち(高野隆志、伊藤慶子、佐藤吉蔵、鎌田功)から嬉しげにお金を徴収するセロリ。

セロリ「大丈夫大丈夫。さあ、お乗りになりたい方はお金を払ってくださいね」

客「高いお金払ったんですからね。しっかり頼みますよ」

 心配そうに見守るネギ太と小百合。

セロリ「さあみなさん、いよいよ出発ですよ」

 乗り物によじ登ったセロリは「ペットントン、発進!」とキス。だがペットントンは何度キスされてもペットントンはまるで膨らまない。並んでいた客は「どうしたんだ」「浮かばないじゃないか」と怒り出す。

客「もしかしてインチキじゃ!?」

セロリ「違う、違う」

 動転するセロリ。

セロリ「ペットントン、何とか!」

 暴徒と化した客たちが詰めかける。

セロリ「違う。助けてくれー」

 ネギ太と小百合は見ていられないという顔。

小百合「ペットントンって、綺麗な女の人にキスされないと浮かばないんじゃないの」

ネギ太「言えるかもね」

 セロリは乗り物から降りて逃亡するも勢い余って池に転落。

セロリ「助けてくれ。あたしゃ泳げないんだよ」

 客たちは拍手して爆笑。

客「やったー!」

客「あっぷあっぷ!」

 ペットントンはタイムステッキで時間を巻き戻して、落ちる寸前のセロリに水泳のマニュアル本を渡した。

ネギ太「ペットントン、ひどいじゃないか。助けようと思えば助けられたのに」

ペットントン「ごめんムニェ」

ネギ太「お前なんか嫌いだ」

ペットントンペットントン、役に立たないムニェ」

 だが池に落ちながらセロリは本に目を通していた。

セロリ「すぐ泳ぎが上手になる法?」

 驚くネギ太と小百合。

セロリ「全身の力を抜き、勇気を持って、両方の手を交互に。こうかく、こうかく、こうかくの、こうかくの? 簡単なことじゃないか!」

 セロリは速攻で水泳をマスター。

ネギ太「ペットントン、お前は偉い。おばあちゃんに泳ぎを教えたじゃないか。役に立ったじゃないか」

 小百合はペットントンにキス。赤くなり膨らみ浮かび上がるペットントン

小百合「やっぱりペットントンは綺麗な人にキスされると浮かぶのよ」 

【感想】

 設定紹介のための比較的無難な話で、前回に引きつづき友だちの輪やタイムステッキの効果などが改めて説明された。セロリが主軸なのも前回と同様で、その強欲で活動的な性格が判る。序盤ではペットントンがはたきをかけるなどトラブルを起こすが、やがてセロリが暗躍してネギ太は醒めた対応をするなど主役の宇宙生物以上に人間たちを重点的に描かんとする意図が伺えよう。セロリがコンピューターを仏壇からひもで縛りつけて虐待するのは、不思議コメディーシリーズの浦沢義雄脚本『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第36話「眠れる森の夢喰う悪魔」でパチンコ台を鞭打ちするシーンを思い出した。セロリが池に転落すると客たちが喜んではやし立てるのも悪夢的で面白い。

 ペットントンがだんごや月見そばから月を連想するシークエンスがあるけれども浦沢脚本では『怪物くん』(1980)の第55話「ミイラは王子だ」ではげ頭から月を、不コメ『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第38話「チーズになった月」ではボタンなどから月を連想して狼男に変身するなどがある(それら諸作は笑えるも、後述の通り今回はシリアス)。

 小百合の出番はそれほど多くなく、ガン太は登場せず。終盤になると小百合とガン太が揃って出てこないと異色に感じられたが(第44話)いま思えば初期の扱いはこんなものであった。おそらくふたりは視聴者の反響で積極的にフィーチャーされるようになったのだろう。今回の小百合は、ラストで自分でキスしておいて「やっぱりペットントンは綺麗な人にキスされると浮かぶのよ」と豪語するあたりは印象に残る。

 ペットントンが新宿の歩行者天国を徘徊するシーンは何故かはたきを持って理由もなく外出してまた畑家に戻っており脈絡がなく、もしかするとシナリオにない場面をねじ込んだのかもしれない。歩行者天国ではハプニング撮影で、周囲の人の反応が生々しい。このやり方は本作では何度となく繰りかえされているけれども、今回の撮影はおそらく放送前で全く知られていないだけにみなペットントンに呆気にとられている。

 田中秀夫監督は『宇宙刑事ギャバン』(1982)などの宇宙刑事3部作や『スケバン刑事』(1985)など多数の東映テレビ作品を手がけた名匠で、不思議コメディーシリーズでは『どきんちょ!ネムリン』(1984)や『勝手に!カミタマン』(1985)も撮っている。特に『ペットントン』と同時期の『宇宙刑事シャリバン』(1983)では23本も監督した(シリーズの半分!)。『シャリバン』では第39話「人形は知っている イガ戦士の心の傷を」など悲劇的なエピソードが特に優れていたが、今回はペットントンが月見そばなどから月を連想してセロリが慌てるシーンはエンディング主題歌「一度だけの魔法」が流されて妙にシリアスなトーンで、見ていて違和感を覚えた。「一度だけの魔法」を流さなければいけない制約があったのだろうか(あるいは同時進行の『シャリバン』に傾注していた田中監督は本作をコミカルにはし難かったのかもしれない)。一方、友だちの輪は前回とは異なって光りながら空中に上がるというファンタジックで宇宙刑事的な凝った演出が施されている。

 クライマックスの遊覧飛行会場は、公園にあるアスレチックの遊具を飛行船に見立てて撮られていた。

 セロリが池に転落する場面では池にダイブする瞬間は吹き替えの人のようだが、演じる斎藤晴彦氏も池に入ってはいる。

  ヨーコとペットントンが歩いている噴水は所沢航空公園で、頻出のスポット(『バッテンロボ丸』〈1982〉などにも登場)。ジャモラーは後半の池転落の伏線なのか、水中から襲来。

 前2回の副題のタイトルコールはペットントン丸山裕子氏だったが、今回以降はネギ太の高橋利安氏が担当。