『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第2話「ホニホニ初恋 愛してる」(1983年10月9日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

 朝、寝ぼけるネギ太(高橋利安)。

ネギ太「小百合ちゃーん…」

 ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)にキスしようとする。ペットントンはネギ太をバットで殴って嘲笑。

 

 朝の食卓でセロリ(斎藤晴彦)は引きつけを起こしたみたいに宙を凝視し、魚を口に当てて笑う。「お母さま?」と驚くトマト(東啓子)。ナス夫(佐渡稔)は「かまうな。かまっちゃいけけない」。

トマト「でも」

ナス夫「でももキュウリもヘチマもキャベツもアスパラガスもない!」

 トマトは「ネギ太、学校遅れるわよ!」と八つ当たり気味に怒鳴る。

 

 学校では「畑ネギ太」と呼ばれる瞬間、ネギ太が廊下を駆けてくる。ネギ太は教室に飛び込むが中からは「いいか、判ってるな」という声。すぐに廊下に出て立つネギ太。隣りのクラスからは友人・ガン太(飛高政幸)がバケツを持って出て来る。ガン太はネギ太にウィンクして「ネギ太くん、学校が終わったら遊ばないか」と迫る。ネギ太は「それが…」とうつむく。

ガン太「遊ぶな!?」

ネギ太「はい!」

 

 皿洗いしているトマトをペットントンが呼ぶ。トマトは庭を見て「あら!」。セロリがテニスのラケットを振り回して「しゅわっち!」と練習していた。

 トマトはペットントンに手伝ってもらいながらベランダで洗濯ものを干す。「どう考えてもおかしいわ」と怪訝な顔のトマト。するとセロリは「ちょっと出かけてきますからね」とうきうきした様子。

トマト「お母様、どこへ?」

セロリ「スマッシュ!」

 

 セロリは街のショーウィンドウで自分の姿をチェック。サングラスのトマトとペットントンは尾行する。ペットントンも真似してショーウィンドウを見ているとトマトは「ペットントン、あっち」。

ペットントン「アームニュムニュ」

 

 セロリはテニスコートの前にいた。若い男(斎藤雅史)を見つめるセロリ。

トマト「まさか、お母さまあの美少年に」

 そこへ「マサシさーん」と若い彼女(塚田悦子)が。「よろしくお願いします」と女は男にコーチされる。

若い男「もっと脇締めて」

彼女「このくらい?」

若い男「うん、その調子その調子」

 セロリは憤激し、テニスボールを踏みつぶす。

トマト「お母さま、あの美少年に恋をしてる」

ペットントン「ムニェトントン」

 いつのまにかセロリの姿がない。

 

 セロリは交番で警官(高橋等)に「テニスコートにいるあの女のほうをすぐに逮捕しなさい!」と迫っていた。

警官「セロリおばあちゃんね、そういうことを言われましてもですよ」

 「わけを話してください」「わけは逮捕しなさいと言ってるだけなんだ」と揉める両者。ペットントンは止めに入る。セロリは「逮捕しなさい」とつかみかかり、警官は「力の強いばばあだな」とたじたじ。ペットントンは横から腕を伸ばす。

警官「何だこの怪獣は!?」

 結果的にペットントンもセロリといっしょに警官を締め上げてしまう。

 

 ナス夫の勤務先は “赤羽区役所” 。戸籍係のナス夫は電話口で「え、母さんが恋を!?」

ナス夫「トマト、だから関わり合うなって。うちの母さんは普通の人とは違うんだ。恋でもタイでもダボハゼでもマッコウクジラでもシーラカンスでもさせておきなさい!」

 

 トマトは電話ボックスでかけていた。

トマト「シーラカンス? どういうこと」

 

 やっと落ち着いたセロリは交番で彼と彼女を引き離せと要求する。

セロリ「あんた警官でしょ。か弱い市民が困ってるんだよ」

警官「か弱い市民が警官の首絞めたりしますか」

 ペットントンは「ア、ペーットントン。ペットントントン」と何か案がある様子。不思議アイテム・友だちの輪を頭から取り出すペットントン。みなで持って手をつなぐと名案が浮かぶというものである。

セロリ「目をつぶって考えましょ」

 セロリと警官、ペットントンは手をつないで目をつぶる。

セロリ・警官「美少年から女の子を離すには…。美少年から女の子を離すには…」

 友だちの輪によると、ふたりをケンカ別れさせればいいという。喜ぶ三者

 

 カフェでは若い男と彼女がひとつのジュースを仲よくふたりで飲んでいた。窓の外にいるセロリとペットントン

セロリ「いいね、ペットントン。私が教えたとおりにやるんだよ」

ペットントン「ムニガテンドゥー」

 ペットントンは手を伸ばして、カフェにいるふたりの靴を脱がしてくすぐる。そして足をひねる。

 彼女は「何するのよ」と怒り、若い男も「痛いなあ」。

彼女「私、帰る!」

若い男「ぼくだって帰るよ!」

 ふたりは喧嘩し、セロリは「やったった」と喜ぶ。トマトも見ている。

トマト「シーラカンスなんてもんじゃないわ。ほとんどアマゾンの半漁人」

 

 セロリは自室にて毛筆でラブレターをしたためていた。トマトは野原動物病院の野原院長(奥村公延)をつれてきた。

院長「奥さん、私は動物専門の…」

トマト「かまわないですよ!」

 ふたりは部屋に乱入し、強引にセロリを診ようとする。ペットントンが掃除機をかけていると、乱闘の音。セロリが部屋から出てくる。

セロリ「ペットントン、ちょっとつき合いなさい」

 部屋ではトマトと院長がのびていた。

 

 セロリはペットントンを、若い男の自宅前に連れて来た。ペットントンは伸びる腕で、ラブレターを2階の窓へ配達。ギターを弾いていた若い男は、入ってきた腕に驚いて悲鳴を上げる。

セロリ「何だい、あの声は?」

 「ムニュ」と悶絶するペットントン。若い男は腕に噛みついていた。「まさし様」と書かれた手紙は床に放り出されている。

 

 職場で気になるナス夫は電話をかけるが、家ではトマトと野原院長がグロッキー状態で誰も出ない。ナス夫は上司に「あのう、すいません」。

 

 公園で浮かれるセロリ。

セロリ「これが恋ね! ペットントン

ペットントン「ムニェ?」

セロリ「ひょっとすると、これが私の初恋かもね」

 セロリは唄いながらペットントンの頭をはたき、ペットントンは軽くこける。

ペットントン「ハチコイ? トントン…」

 ペットントンは公園のあちこちで「ハチコイ」とつぶやく。

 

 学校帰りに小百合(川口智子)と別れたネギ太は、ペットントンに遭遇。「ハチコイ、トントントン」と理解できない様子のペットントン

ネギ太「ハチコイ? ああ初恋のこと?」

ペットントン「アームニムニ」

ネギ太「初恋ね。初恋とはそう、ぼくが小百合ちゃんのことを…つまり愛することさ」

ペットントン「アイチルトントン?」

 そこへ「お前、おれと遊ぶ約束じゃ」と現れたガン太。だがネギ太はペットントンを指す。

ガン太「ネギ太、お前こんな、人類じゃないやつと」

ネギ太「いやそうじゃなくて」

ガン太「お前、おれを見捨てる気だな」

ネギ太「そんな」

ガン太「同情はやめろ」

ネギ太違うんだよ」

ガン太「おれは、おれは、悪い仲間とつき合って、非行少年Aになってやる」

 ガン太は泣き伏す。

 

 ペットントンは「ハチュコイトントン」「アイスルトントン」と何故かさまざまな場所に出没。路上で目にした若い女性(宮脇志都)は「ああ」と道に倒れ込み、初老の男性は「しっしっ」とステッキで追い払おうとし、熟年女性(八百原寿子)は「あっち行ってよ」とバッグで攻撃。若い男性はパチンコ屋の前で景品を放り出して逃げ出す。

 周囲の一般市民から気持ち悪がられるが、神社で出会った若い女性(若林一美)はクール。

若い女性「初恋?」

 彼女は「その顔で?」と笑い出す。

若い女性「どう見ても初恋って顔じゃないわよ。あんたの顔」

 笑い合ううちに膨らんで浮かび上がるペットントン

若い女性「どうしちゃったの。大丈夫!?」 

 ペットントンは不思議なボールを生み出した。

若い女性「なあに、これ?」

 ボールは光り出し若い女性は「螢みたい」。

 

 心配したナス夫は、早退して帰って来た。ナス夫と野原院長はぼろぼろ。

ナス夫「だから関わり合うなって言ったんだ」

 

 商店街で泣き崩れるガン太。

ネギ太「ガンちゃん、泣くなよ。(周囲に)この子を泣かせたのはぼくじゃありません!」

 

 セロリは「愛してる、愛してない」とティッシュ占い。ナス夫が入ってくる。

ナス夫「お母さん、やめてください! もう少し、もう少しでいいんです。真面目に生きてください。聞けば、恋した相手は大学生の美少年だというじゃありませんか」

 ナス夫は父の遺影(佐渡稔)を取り出してきた。

ナス夫「私のお父さんはこの人です。お母さんはお父さんだけを愛すればいい。私は、私はその美少年をお父さんと呼びたくない!」

セロリ「だー!」

 ナス夫につかみかかるセロリ。

 

 セロリは上機嫌で「私は愛に生きる!」と外出。向かいのおじさん(木村修)が「ご機嫌ですね、おばあちゃん」と声をかけるとセロリは投げキッス。

 

 ナス夫はふすまに突きささっていた。引っこ抜こうとするトマト。

トマト「お父さん、とうとう関わり合っちゃったのね」

 

 公園にて、飛び回るボール。浮かんでペットントンの頭に着陸したボールからは赤い生物・ジャモラー(声:八代駿)が誕生。

ジャモラー「ペットントンの髪の毛ごちそうジャモラー」

 ペットントンの髪の毛を食べようと、追い回し始める。

 

 逃げてきたペットントンは浮かれるセロリとばったり会う。

ペットントン「ジャモラー、愛してないトントン」

 セロリは若い男と女を見かける。ベンチでふたりは「じゃあ、今度の日曜日ね」とデートの約束をしていた。セロリのラブレターはベンチに。若い男はラブレターを敷いてベンチにすわっていたのだった。

 

 橋の上で嘆くセロリ。

セロリ「ああ、ブタが飛んでる! ああ、オットセイが飛んでる! この涙が乾いたら、また恋をしましょう」

 そこで、さっきの若い女性が柄の悪い暴走族(山崎忠司、貫井正浩)に「気取ってないでドライブ行こうぜ」とからまれていた。

若い女性「やめて、はなしてよ!」

 ペットントンはタイムステッキで時間を止め、若い女性を救うとセロリを暴走族にけしかける。キスしようとするセロリ。

セロリ「いいんだよ坊や。遠慮しなくったって」

男「気持ち悪い、逃げろ!」

 暴走族を追いかけ回すセロリ。若い女性はペットントンにキス。ペットントンは膨らみ、浮かび上がる。

若い女性「ペットントン、大好き」

ペットントン「ハチュコイー」

 

 その近辺の道でネギ太とガン太は自転車にふたり乗り。ガン太は、ネギ太に後ろから抱きつく。

ガン太「おれ、お前のこと一生離さないぞ」

ネギ太「うわーやめろ!やめろ!助けて!!」 

 夕暮れの道を、手をつないで歩いていく若い女性とペットントン

【感想】

 セロリがメインの回だが、初回に引きつづき嫁姑の確執かと思いきや息子より若い男に横恋慕してふられるというのは面白い。浦沢義雄脚本での失恋は定番で本作でも第37話第40話にて同様のプロットが描かれる。その37話や不思議コメディーシリーズ『美少女仮面ポワトリン』(1990)や『うたう!大龍宮城』(1992)は少年少女による悲恋で哀切だけれども、今回のように斎藤晴彦氏の怪演するセロリだと破天荒ぶりに笑ってしまう。

 浦沢作品にはアクティブな老婆が初期から登場しており『ルパン三世』第2シリーズ(1980)の第92話「マダムと泥棒四重奏」や第128話「老婆とルパンの泥棒合戦」などが挙げられる。本作で遂にレギュラーに据えられた姑・セロリはこの時点での決定版とも言えようが、青島幸男の『意地悪ばあさん』(1967)と『いじわるばあさん』(1981)の両シリーズが人気を博していたとはいえ『8ちゃん』の敵役・バラバラマンだった斎藤晴彦氏に演じさせるというアイディアには唸る。劇団黒テントに所属していた斎藤氏は『8ちゃん』の他に不コメ『バッテンロボ丸』(1982)のアクション指導や第27話のゲスト出演、『宇宙刑事シャリバン』(1983)の第19話の怪人役など東映特撮ドラマの実績があり、おそらく当時の視聴者は「バラバラマンが婆さんに…」と呆気にとられたことだろう。

 まだ第2話なので新しいキャラとアイテムも目立ち、まずネギ太を愛して迫るガン太が初登場。飛高政幸氏の熱演もあって『ペットントン』にこの人あり、と言うべき強い印象を残す。ガン太に非行に走ってやるという台詞があり時代を感じさせるけれども、浦沢脚本の非行ねたは意外と頻出で後年の『燃えろ!ロボコン』(1999)に至るまで繰り返されている。

 公園で爆誕したジャモラーも今回以後は、ほぼ毎度ペットントンを襲う。ストーリーに関わることもあるが、因果関係が全くないことも多い。今回はジャモラーの下にわずかに車輪が見えてしまっていた。声を演じる八代駿氏はペットントン役の丸山裕子氏と同じテアトル・エコーの所属で、仮面ライダーシリーズで怪人の声を多数演じたほか洋画の吹き替えでも活躍。本作と平行して『超電子バイオマン』(1984)ではシリアスな悪の幹部役も好演した。

 ペットントンの初恋の相手である若い女性・ヨーコは、今回はまだ名前がない。ヨーコは本作の中盤までは、物語を牽引するひとりであった(後半には出番が消滅)。ちなみに他の浦沢作品では『ロボット8ちゃん』の第17話「ナウいロボット!おしゃれが上手」に登場する「ナウい」お姉さん(中村久美)の名もヨーコだった。 また『勝手に!カミタマン』(1985)の第26話「佃煮博士の秘密指令」でも博士を棄てた奔放な妻(本多知恵子)もヨーコである。

 あくの強い面々の中ではなかなか目立たないけれども、交番に勤務する警官も初登場。彼の出番は多く、いたずらの被害者から犯人逮捕までさまざまな役回りがある。演じる高橋等(現:たかはし等)氏はナス夫役の佐渡稔氏と同じ東京ヴォードヴィルショーに所属する俳優で、さりげなく演じていて好印象。次作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第10話にも登場するほか、テレビ『コメディーお江戸でござる』や『池袋ウエストゲートパーク』(2000)などにも出演している。

 前半でペットントンの不思議アイテム “友だちの輪” が初めて使われていて、当時ブームだった『笑っていいとも』(1982〜2014)における台詞をいただいたもの(『いいとも』では1987年ごろまで、毎日このフレーズを言っていたという)。1983〜84年はいちばん世間で流行していて、この時期の映画などを見ると無駄に「いいとも!」と台詞に出てくるが、ただ本作の “友だちの輪” の用途は解決策をひねり出すというもので直接に交友関係に役立つわけではない。本作終了間際の1984年には『ドラえもん』(小学館)でも同様の道具 “友だちの輪” が登場していて、こちらは仲良しになるためのものであった。“友だちの輪” でセロリと手をつないだ警官が考え込むシーンでは右手に「ひとりで悩まないで」と書かれたポスターが意図的なのか映り込んでいる。

 ペットントンが掃除機をかけるなど家事をする場面もあり、地球での生活に早くも馴染んでいる。セロリやガン太が迷惑行為に走る一方でペットントンがトラブルメーカーでなく常識人(常識生物)なのもユニーク。

 失恋して「涙が乾いたら、また恋をする」という台詞は『美少女仮面ポワトリン』の第19話「涙の新兵器」でも使われている。

 

 警官のいる交番は後年の『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)などにまで登場する不思議コメディー御用達のロケ地で、練馬区大泉町にあるマンションの入り口。一見自然で気がつかないが、よく見ると左側にマンションのドアが映っている。

 川沿いの公園は、オープニングにも登場しこの先も頻出する武蔵関公園