第40話「ガン太に恋したお人形」(1984年7月8日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
雨降りの午後、ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)が心太を食べようとすると、セロリ(斎藤晴彦)に麦茶を持って来いと言われる。「このうちはみんな人使いが荒い」と文句を言いながらセロリの部屋へ行くと、障子が光り、鬼火が出てくる。そして幽霊が! ペットントンは気絶。セロリの化けた姿だった。
セロリ「これで敬老お化け大会で優勝できるぞ!」
雨降りの道で、ガン太(飛高政幸)は相合い傘しながらネギ太(高橋利安)の腰に腕を回す。「やめろよ!」と怒るネギ太。ガン太はウインク。
ガン太「ネギ太って拗ねるとほんとうにかわいいんだよな」
帰宅したネギ太は不機嫌。ペットントンとトマト(東啓子)は心太を食べている。
ペットントン「ま、いろいろある年ごろだムニェ」
トマト「そうね!」
そこへ電話。トマトとのじゃんけんで負けたペットントンが出る。
電話は、さっき別れたばかりのガン太からネギ太へだった。雨降りの電話ボックスにいるガン太。
ガン太「ア・イ・シ・テ・ル」
畑家にて、ますます怒るネギ太。
ペットントン「年ごろだムニェ」
トマト「そうね!」
童謡「あめふり」をバックに、ガン太は雨の中の公園を跳ね回る。
「♪じゃのめでおむかえうれしいな ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン」
「♪あらあら あのこは ずぶぬれだ」の件りで、ガン太は公園に棄てられている人形を見つける。何か思いついたガン太。
晴れ上がった翌日、登校しようと自宅を出たネギ太の前にガン太が「ばあ!」と現れる。抱きつくガン太と、「暑っ苦しいんだよ」と厭がるネギ太。
放課後、「いつもの場所」で「へへー」と待っていたガン太は、ネギ太にプレゼントを渡す。
ネギ太「きょうはぼくの誕生日でもないし、まさかお盆のプレゼント?」
ガン太「プレゼントするのに、誕生日もお盆もないだろ。気持ちだよ、気持ち」
ネギ太「気持ち?」
ガン太「お前、おれの気持ち判ってんだろう」
ネギ太「まあそれは」
ガン太「プレゼントも渡したし、おれはかっこよく去るからな。お前もそれらしく見送れよ」
肩を揺すりながら去って行くガン太。
帰宅したネギ太が箱を開けると、例の人形が入っていた。
ペットントン「かわいい」
ネギ太は怒る。
ネギ太「ガンちゃんまさか、ぼくにこんなもの抱いて寝ろとでも言うの!?」
ネギ太は、この件を小百合に相談すると出て行く。
ペットントン「あ、やだな。なんだかんだって小百合ちゃんのとこに行きたがるんだムニェ」
ペットントンが人形を放り投げると、人形はむっくり起き上がりリリーと名乗った。驚くペットントン。
野原動物病院では、ネギ太が小百合(川口智子)と野原院長(奥村公延)に相談していた。
ネギ太「どう見たってプレゼントするような人形じゃないんだけどな」
小百合「そんなこと言うもんじゃないわ。ガンちゃんに悪いでしょ」
コーラを飲む野原院長。
院長「しかしどうして、ガン太くんがネギ太くんにプレゼントしなくちゃいけないんだ?」
小百合「決まってるじゃない、ガンちゃんはネギ太くんに恋してるから」
院長はブーッとコーラを吹き出す。
ネギ太「やめてよ、小百合ちゃん!」
小百合「いいじゃない、真実なんだから。ガンちゃん言ってたわよ」
院長「何て?」
小百合「ネギ太くんの子どもはおれが産むって」
また院長はブーッとコーラを吹き出す。
院長「小百合ちゃん、すまんがきょうは休もう…」
小百合「あ、そう!」
人形の名はリリー(声:松尾佳子)。
リリー「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。わたし、どちらかと言えば、優しい性格だから」
リリーとペットントンは語らう。
リリー「こんなぼろぼろじゃね、誰も相手にしてくれないわ」
ペットントン「そんなことない、そんなことない」
リリー「あなただって、さっきあたしのこと投げ捨てたじゃないの?」
ペットントン「あ、ごめん…」
リリー「いいのよ、ペットントン。でもね、こんなあたしでも大切にしてくれた人がいるの」
ペットントン「誰ムニェ、誰?」
そこへトマトが「ただいまー」と帰宅。リリーは動かなくなる。トマトが去ると、リリーは動き出すが、ナス夫(佐渡稔)が「ああ、あちあちあち」と帰宅。またリリーは動かなくなる。ペットントンは「高い高い高い、あばばばばー」とリリーをあやす。
ナス夫「赤ん坊じゃないんだから」
ナス夫が行くと、
ペットントン「ね、誰?誰なのムニェ?」
リリー「それは、それは」
そこでCM。
CMを挟んで、木陰でジュースを飲むリリー。衝撃を受けているペットントン。リリーはガン太に恋していた。
ペットントン「ガン太が優しくしてくれたの」
リリー「初めてよ、私。あんなに優しくしてもらったの」
ガン太はリリーを拾った後、コインランドリーで洗い、乾燥させた。そして自宅で繕ってくれたのだった。
ペットントン「ガン太、拾った人形をネギ太にプレゼントムニュ?」
リリー「ええ、そういうことになるわね」
何か釈然としない様子のペットントン。
リリー「ああ、これが恋なのね。私、ガン太さまに恋をしてしまったのね」
ペットントン「ニェ、ガン太に恋!?」
リリー「おかしい? それにペットントン。あなた、さっきから聞いてれば私のガン太さまをガン太ガン太って呼び捨てにして、あなたガン太さまの親戚か何か!?」
そこへ「ペットントン!」とガン太が現れる。動かなくなるリリー。
ガン太「え、おれに恋してる女の子がいるって? どこどこ?」
ペットントンが「あそこ」と指した先にはリリーが。ガン太はペットントンをこづく。
ガン太「どうしておれが宇宙生物にからかわれなきゃいけないんだよ!」
ペットントン「違うムニェ!」
ガン太「だいたいあの人形、おれがネギ太にプレゼントしたやつじゃないか。あれデパートで高かったんだぞ」
ペットントン「ムニェ!?」
ガン太「やっぱりネギ太、気に入らなかったか。新しいのさがそう」
ガン太は、リリーを放り捨てて行ってしまう。
ペットントン「ガン太何する! この人形、ガン太のことほんとにムニェ」
ペットントンは憤慨するが、いつのまにかリリーは姿を消していた。
リリーはこども園にある新幹線の遊具の線路に横たわり、鉄道自殺を試みていた。ペットントンは腕を伸ばして救出。だがリリーはまたいなくなって、カートの遊具の前にいた。
ペットントン「あ、あぶない!」
ペットントンが慌てて助け出すと、またいない。今度は池に浮いているリリー。
公園のベンチにいる、リリーと気まずそうなペットントン。
リリー「ガン太さまの意地悪!」
リリーは泣き崩れる。ペットントンは友だちの輪に、ガン太を懲らしめる方法を訊いた。
ガン太「ネギ太のやつ、おれみたいにどこ出しても恥ずかしくない立派なボーイフレンドがいながら…そうだ!小百合のところへ行ってんだ」
ひとりキャッチボールをするガン太。そこへ現れたペットントン。
ガン太「何だよ! おれひとりで淋しさに酔ってんだから」
ペットントンは「ネギ太いるよ」とガン太を誘い、畑家へ連れて来た。室内は真っ暗。
ガン太「何だよこの家は。7月だというのに閉め切っちゃって」
電灯は点滅。炊飯器はバタバタ開く。そこへ「うらめしや〜ガン太さま〜」という声とともに、暗闇に浮かび上がるリリー。ぎゃーと悲鳴を上げて逃げ出すガン太。
リリー「ペットントン、やりすぎなんじゃないかしら」
ペットントン「大丈夫よムニェ」
リリー「ガン太さま、ちょっとかわいそう」
ネギ太と小百合は手をつないで、仲良くローラースケートをしていた。よろけた拍子に、笑顔で手を握り合うふたり。そこへ「助けてくれー」とガン太が走ってくる。畑家にお化けがいたと主張するガン太。
小百合「ばかばかしい、やめなさいよ」
「嘘じゃないよ!」と、ガン太は信じない小百合を押しくる。小百合のローラースケートは止まらなくなった。
小百合「誰かー助けてー」
坂道で、小百合は買い物帰りの主婦、みかんを運ぶ運送の人にぶつかり、路上にみかんが散らばる。ジョギングする道着の男たちもひっくり返る。乳母車を押す母親にぶつかった小百合は、どうにか止まることができた。
小百合「ああ、助かった」
だが今度は乳母車が止まらなくなり、踏切めがけて爆走! 電車がやってくる。悲鳴をあげる母親。
通りがかったペットントンは、タイムステッキで、ガン太が小百合を押す瞬間まで時間を戻す。
リリー「ペットントン、あの女の子、私のために。止めてあげて!」
押された小百合は、ぶつかった拍子にペットントンにキス。
ペットントン「ムニェー」
キスされたペットントン膨らみ、リリーといっしょに浮かび上がった。ガン太と小百合、ネギ太も思わず笑ってしまう。
リリー「うわあ、素敵。ペットントン見て、ほら!」
ペットントン「ああ、きれい…」
夏の空には虹がかかっている。浮かんで見とれるふたりだった。
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【感想】
第19話のゲストは雪ダルマだったが、今回は人形。チャーハンや豆腐に連なる、浦沢義雄脚本による無生物ドラマのバリエーションである。もう大詰めの時期なので、次作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の主人公に人形を使うことは当然決まっていた筈であり、そのテストでもあったのだろう。ドラマのまとまり、才気など19話を上回る出来のよさで、『ペットントン』の頂点のひとつと言えよう。
浦沢脚本では無生物が動き出すことに何の理由もなく、今回も人形は唐突にむっくり起き上がる。人形の操作はスタジオノーバの岡野真理子、日向恵子両氏で、日向氏は『ネムリン』でも操作を担当している。実に生き生きした自然な動きだが、『ネムリン』では今回を超える素晴らしさだった。ペットントンの高木政人氏の動きも、怒るさま、とまどうさまなど円熟しており、ペットントンと人形の共演シーンは仮面劇のさりげない超絶技である。
人形の声は松尾佳子氏で、アニメ『母をたずねて三千里』(1976)や『無敵超人ザンボット3』(1977)などで知られるベテラン。筆者には、NHKの『にんぎょうげき』におけるトラウマ回「パンをふんだむすめ」(1975)が印象深い。
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つい人形にばかり目が行ってしまうけれども、演出の仕掛けも見逃せない。「あめふり」が流れる中で踊るガン太や、ガン太が人形を繕うのをシルエットにするシーンなど、凝っていて笑わせる。
前回で小百合は誰ともつき合わないと台詞で宣言していたが、今回はわれらコミュ障にショックを与えるような、ネギ太との仲むつまじさ…。第14話や第25話など、ネギ太と小百合を好んで演出する坂本太郎監督が、シナリオから膨らませたのかもしれない。
『ペットントン』で童謡が使われるのは第17話の「かあさんの歌」、第19話の「雪やこんこん」、第20話の「ずいずいずっころばし」などがある。17・19話での歌は映像の装飾で、一方で20話の「ずいずいずっころばし」は何の脈絡もなく、その意外性?が強烈な魅惑を放っていた。逆に今回の「あめふり」は歌詞がそのまま情況の説明になっていて(17話や19話以上のシンクロぶり)、これも面白い。17・40話、19話、20話はそれぞれ違う3人の監督が担当していて、選曲はシナリオの指定なのか、監督やスタッフによるものなのか。
人形が自殺を試みるシーンは、『ネムリン』の第10話「バス停くん田舎へ帰る」でもバス停で反復されていた。前回と同じく、人間がやったら当たり前(でもないか?)の行動も、人外や無生物がやると衝撃が大きい。浦沢脚本のアイディアの極北である。このこども園は第29話でも使われている。
ラストは、ペットントンと人形が空に浮かび上がり、何となく終わってしまう。このト書きは「人形の悲しみは夏の空に消し飛んだみたいだ!」だったそうで(「東映ヒーローMAX」Vol.14)、事態は解決したわけではないのにどこか納得感をもたらす。この時期の浦沢脚本は勢い任せで書いていたはずで、投げっぱなしと言えば投げっぱなしだが収束もしているという才気に敬服する。この終わり方は後年の『ビーロボカブタック』(1997)の第21話「恋するかたつむり」にも使い回されていて、ロボットの恋が片想いに終わった後で虹を見上げているところで幕を閉じる。
小百合のローラースケートが止まらなくなる場面で、最初にぶつかりそうになる主婦と、最後にぶつかる子連れの母親はよく似ている(同じ役者さん? クレジットはなし)。