【ストーリー】
夏の朝、黙々とご飯を食べるネギ太(高橋利安)とセロリ(斎藤晴彦)、ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)。
ネギ太「おばあちゃん、何歳まで生きるつもり?」
がつがつ食べていたセロリがむせる。
ペットントン「セロリ!」
ネギ太「ペットントン、大丈夫だよ。こんなことで死ぬようなおばあちゃんじゃないから」
夏ばてでグロッキーのナス夫(佐渡稔)を、トマト(東啓子)は「ファイト!」と鼓舞。ナス夫はふらふらと出勤。
ネギ太が食べようとした卵を、セロリが強奪。
ネギ太「おばあちゃん、いいの? ぼくが大きくなっておばあちゃんの面倒見なくても」
怒るセロリ。慌てるペットントンだが、
ネギ太「いいの。このうちで育ってくためには、このぐらいたくましく生きなくちゃ。母さん、おかわり!」
野原動物病院の前で、眠そうな小百合(川口智子)。ボストンバッグを持った根本(玉木潤)は、海外旅行の帰りだという。
根本「うちはブルジョアですから、夏休みの海水浴も海外で。来年は小百合さんもご一緒に。思い出すなあ、フランスのニースの浜辺」
根本はサンゴのお土産を渡しに来たのだった。
根本「フランスはニースのお土産です」
小百合「これ、江ノ島って書いてある」
根本「いえ、ですから、フランスはニースの江ノ島のお土産なんです。はっはっはっはっは」
小百合は、根本の顔に殺虫スプレーをかける。
根本「ぼくはハエや蚊じゃない。やめろー」
逃げ出す根本。小百合はボストンバッグを容赦なく蹴っとばす。そこへ現れたペットントンは、根本を嘲る。
根本「何です、その下品な笑い方は」
根本はショックで倒れる。
根本「ぼく、虚弱体質なもんで、ばかにされるとすぐ倒れてしまうんです」
畑家の庭でトマトが洗濯していると、ガン太(飛高政幸)が「ネーギー太くん」とやって来る。ガン太はプールへ行こうと、満面の笑みでネギ太にウィンク。
ネギ太「ぼく、行かない!」
トマト「どうして」
断固拒否するネギ太。
ネギ太「母さんは知らないんだ。ガンちゃんがどういう性格なのかを。ガンちゃんは普通の子じゃないんだ!」
トマト「どういうこと」
ガン太「さあ。ははははは」
ペットントンは、倒れた根本を連れてきた。ガン太は、厭がるネギ太を抱えて連行。すれ違う両者。
ネギ太「ペットントン、助けてくれ!」
畑家に運び込まれた根本。ばかにされると倒れると聞いて、
トマト「珍しい虚弱体質ね」
ソファで寝ている根本の前に、セロリが来る。
セロリ「根本じゃありませんか」
ペットントン「そうよ」
根本「まだくたばってなかったんですか」
激怒するセロリは、根本をクッションで攻撃。
蕎麦屋のマサト(高木政人)が冷やし中華を出前。食べながら不機嫌なセロリ。
セロリ「トマトさん」
トマト「はい」
セロリ「最近、ネギ太生意気になったと思いませんか」
トマト「さあ、本人はたくましくなったって言ってますけど」
セロリ「それが生意気だっていうんですよ。大体ね、あんたの教育にも責任があるんですからね」
にらみ合うふたり。
セロリ「喧嘩は冷やし中華食べてからやりましょうね!」
庭でヘルメットを着けてつかみ合うセロリとトマト。食卓でまだ食べながら見ている根本とペットントン。ペットントンは「やってるやってるヒヒヒ」と嗤う。
根本「ネギ太くんちって過激な家庭なんですね」
ペットントンは、小百合に根本のお見舞いに来るように依頼。
畑家で根本は花を生け、すいかを用意し、小百合の訪問に備える。ベランダではセロリとトマトの乱闘がつづく。
やがて小百合が無理やり連れてこられた。
小百合「厭よ、私。根本くんなんかのお見舞い、行きたくないわ」
寝込んでいる根本。
根本「実はぼく、あと3日の命なんです」
ペットントン「ムニェ!?」
驚く小百合とペットントン。
小百合「嘘でしょう?」
苦しむ根本。
根本「神様に誓って本当です」
「あと3日?」と絶句する小百合。小百合を伺いながら苦しんで見せる根本。小百合は顔を手で覆って…
小百合「あははははは、根本くんがあと3日の命!やった、最高、やったー!」
出て行く小百合。
根本「ああ、ぼく再起不能」
無表情の根本の顔の照明が落ち、黒い陰影が。根本はテーブルの上に椅子を乗せて飛び降り、花瓶やすいかを頭でかち割る。
ペットントンはタイムステッキで時間を戻し、根本を連れて浮かび上がった。
ペットントン「元気出せよ」
根本は、なんとなく元気が出た。公園に降りたふたり。
根本「ペットントン、ありがとう」
根本は小百合のことをあきらめるという。
根本「ぼくはきみのおかげで、人間的にひと回り大きくなったみたいです」
根本は恩人のペットントンにお礼がしたいという。
根本「ぼくの気持ちと思って、ぼくのキスを受けてくれ」
逃げ出すペットントン。そこへプール帰りのネギ太とガン太が来る。
ガン太「お願い、ネギ太の海水パンツ、1度洗ってみたかったんだ」
ネギ太「やめてよ、ガンちゃん!」
根本はネギ太の手を握る。
根本「ぼくはきみに負けました。小百合さんをよろしくお願いします」
ガン太「根本、お前どうしたの。小百合の親戚みたいな口聞いちゃって」
小百合にふられたと聞き、喜ぶネギ太。
根本「ぼくはきみに感謝したい。ぼくのひとつの青春に、きみというライバルがいたことを。これはぼくの気持ちです。ぼくのキスを受けてください」
驚くネギ太とガン太。
ガン太「やめろよ根本、おれのネギ太に手を出すな」
畑家へ戻ってきたネギ太とガン太、ペットントン。セロリとトマトは不在で、置き手紙があった。
ガン太「(読み上げる)ネギ太へ。おばあちゃんとお母さんは医者に行ってきます。セロリ トマト」
ガン太は窓やドアの周囲を伺い、誰もいないことを確認して、にやり。
ガン太「ペットントン、ちょっと、ちょっとちょっと」
「?」とペットントンが近づく。
ガン太「これから起きることは、誰にも言うなよ」
ペットントン「ムニェ?」
ガン太「へへー」
ガン太は舌なめずりしながら、ネギ太に近づく。
ネギ太「(麦茶を)飲む?」
ガン太は目を閉じ、くちびるを突き出す。
ネギ太「やめてよ、ガンちゃん!」
ガン太「いいじゃないかよ」
ネギ太はガン太の顔に麦茶をぶっかける。
野原動物病院の前で体操する根本。
小百合「あと3日の命じゃなかったの?」
根本「ええ、すっかり治りまして」
小百合「そんなー」
根本「ところで小百合さん、小百合さんの理想の男性像を教えてください」
小百合「そんなこと聞いてどうするの」
根本は、小百合の理想の男性をさがして紹介するのだという。
小百合「そうだ!」
何か思いついた様子。
畑家では、ネギ太が小百合と電話で話していた。ガン太は受話器を奪う。
ガン太「小百合、ネギ太の子どもはおれが産む!」
ははははは、冗談だよと哄笑するガン太。そこへ絆創膏を貼ったセロリとトマトが帰宅。
ペットントン「どうした、ふたりとも?」
「ふん!」とセロリとトマト。
スーツとカバンを引きずって、よろよろと畑家へ帰ってくるナス夫。
夕食どき、セロリとナス夫は食卓にいない。
トマト「どうせ私の悪口でも言ってるんでしょ!」
セロリの部屋では、ナス夫が吊り上げられていた。
セロリ「ナス夫!あんな嫁、離婚しなさいよ」
ナス夫「母さん、私、夏ばてなんです」
ふらふらのナス夫。
ナス夫「母さん、そのうち夏ばてが治ったときにでも」
セロリ「ナス夫!ハタケ山麓呪い村」
食卓へナス夫の叫び声が。出て来たナス夫はばたりと倒れ、みなは慌てて駆け寄る。セロリは風呂敷包みを背負っていた。
セロリ「私は、こんなうちはもう出て行きますからね」
トマトは「お母さま、落ち着いて!」と止める。ナス夫を介抱するペットントンとネギ太。そんな折りに、
小百合「助けて!」
小百合が庭から飛び込んできた。つづいて乱入してきたのは、何とエリマキトカゲ。
エリマキトカゲ「小百合さん、レロレロレロ」
驚く一同。
ペットントン「根本!」
エリマキトカゲになった根本だった。
根本「ぼくは根本じゃない。小百合さんの理想の男性だ」
小百合を追いかける根本。呆気にとられるペットントン。「やめろよ」と止めるネギ太。「出て行きますからね」と息巻くセロリと狼狽するトマト。
食卓はパニックの極限に達した!
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【感想】
根本最後の暴走編。今回、キスを迫るのはまだともかく、拒絶されたショックで逆立ちしたり、ラストでエリマキトカゲになったり、いつも以上に常軌を逸している。
小百合も根本が死ぬと聞いて大喜びしたり、セロリもナス夫を吊り上げたり、主題歌に倣えば「この街は アクビを忘れた」狂人の国、とでも言うべきありさま。初見の際の筆者は、やりすぎでは?と少々引いてしまったのだが、何度か見直してみると、シリーズも大詰めだし、これくらいの刺激は必要なのかもしれないという気になった。
根本は小百合に拒絶された直後はダークな表情を見せるも、比較的早めに(1、2時間程度?)で立ち直り、最後にはエリマキトカゲに変身。なかなかに明るい男である。
今回の監督は、『ペットントン』の第1話から助監督を務めてきた大井利夫氏(本作が監督デビュー)。浦沢義雄脚本の不思議コメディーシリーズでは、『どきんちょ!ネムリン』(1984)や『勝手に!カミタマン』(1985)も演出。『ネムリン』の第10話「バス停くん田舎へ帰る」や第27話「イビキのガイコツ作戦」は印象深い傑作エピソードである。やはり浦沢脚本の月曜ドラマランド版『悪魔くん』(1986)も担当(この『悪魔くん』は根本役の玉木潤氏の主演。嗚呼見てみたい…)。 他に『スケバン刑事Ⅲ』(1986)や『科捜研の女』(1999)、『相棒 Season1』(2002)、『相棒 Season2』(2003)など多数の作品を手がけた。
本話は処女作らしく、ふられたショックで根本に射す黒い影や、ガン太が笑みを浮かべてネギ太を狙うシーンの長回しなど、センスを感じさせる意欲的な演出が見られた。特撮デビュー作の監督による凝った演出や画づくりとしては、『帰ってきたウルトラマン』(1971)の第33話「怪獣使いと少年」(東條昭平監督)が思い出される。
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ラストは収拾がつかない形で終わっており、本作や『ネムリン』などこの時期の浦沢義雄脚本に散見されるが、私見によれば、このような浦沢投げ出しエンドは『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)あたりで姿を消し、ドラマが落ち着く形で収束するようになっていく。
冒頭では松田聖子「青い珊瑚礁」、畑家ではわらべ「もしも明日が」が流れる(後者は第32話でナス夫が熱唱)。
寝込んだ根本のもとへ連れてこられた小百合の「やめてっていってるでしょ!」という金切り声は、真に迫っていてちょっと怖い。
セロリの台詞はおそらくアドリブで、当時の映画『湯殿山麓呪い村』(1984)が出てくる。ユーモアミステリーの原作を陰鬱で救いのないメロドラマに脚色したカルト的な傑作映画。
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