『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第32話「聖子かマッチかオミッチャン」(1984年5月13日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

 宇宙の芸能プロマネージャーのミッチャン星人オミッチャン(福原一臣)は、ショートケーキ型UFOを修理中。ふとカメラの方を振り向くオミッチャン。

オミッチャン「あら、お久しぶり」

 オミッチャンは、ペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)をミッチャン星へ連れて行きスーパースターにする夢をあきらめていなかった。

 畑家ではみなで昼寝していたかと思ったら、セロリ(斎藤晴彦)とトマト(東啓子)の喧嘩が始まる。

セロリ「トマトさん、その下品ないびき、何とかなりませんか!」

トマト「お母さまこそ!」

 対峙するふたり。

トマト「アチョー」

セロリ「課長」

トマト「部長」

セロリ「社長」

 思わず起きるナス夫(佐渡稔)。

セロリ・トマト「(ナス夫に向かって)平!」

ナス夫「判ってます。それは、私はダメな人間です。ですけども政府はもっとダメだ。さあ、唄おう。♪もしも明日が〜晴れならば〜」

 ナス夫は唄い踊るが、諍いはつづく。放置して外出するナス夫。

 

 公園にてネギ太(高橋利安)たちと待ち合わせしていた小百合(川口智子)の前にオミッチャンが現れる。

小百合「私をスターにするって言ったじゃない?」

オミッチャン「あんた生意気だから嫌い」

小百合「私もきらーい」

 「♪甍の波と〜」と唄いながら去っていくオミッチャン。やって来るネギ太とガン太(飛高政幸)。

ネギ太「小百合ちゃん、ごめんごめん。ガンちゃんのトイレが長くって」

ガン太「小百合、いまの変なおじさん、お前の親戚?」

小百合「まさか!」

ネギ太「誰なの」

小百合「ほら、前にも話したでしょ。ペットントンをスターにしようとしている宇宙人」

 ガン太とネギ太は顔を見合わせる。

ガン太「あれでも宇宙人…」

ネギ太「ぼくたち思わず」

ネギ太・ガン太「笑ってしまいます」

 無言で笑うネギ太とガン太。

小百合「ネギ太くん、ガンちゃん、頼むから声出して笑って」

 

 オミッチャンが畑家に現れると、ベランダでセロリとトマトの壮絶な抗争がまだつづいていた。止めに入ったオミッチャン。それを見たペットントンは立ち去る。オミッチャンは名刺を出して自己紹介し、ペットントンをスターにして儲けようと提案。セロリとトマトは乗る。だが、今朝から何を食べていないというオミッチャンの昼食は鰻とお寿司のどちらがいいかで、セロリとトマトはまた対立。

オミッチャン「こりゃダメだ」

 

 公園で遊ぶ、ペットントンと3人。ネギ太やガン太は、ペットントンがスターになるなど無理だと言う。

小百合「私、思わず笑っちゃおう」

ネギ太「小百合ちゃん、お願い」

ガン太「気持ち悪いから、声出して笑って」

 

 ペットントンの前にオミッチャンが現れる。3人にバカにされたペットントンは、スターになりたいと言い出す。

オミッチャン「だいたいあの小百合って子は、せいぜいなれても国際的スターよ。ペットントン、あんたは宇宙的スターよ。スケールが違うのよ、スケールが」

 オミッチャンは野原でペットントンに歌にダンス、アクションを特訓するが、ペットントンはどれもろくにできない。何も食べていないオミッチャンはダウン。ペットントンは野原動物病院へつれて行く。野原院長(奥村公延)は「単なる腹ぺこ」だという。ペットントンはオミッチャンに焼きそばをおごる。飢えて孤独なオミッチャンを救うため、ペットントンは友だちの輪のお告げを訊く。

ペットントン「オミッチャンを地球でスターにすればいい」

 

 翌日、今度はペットントンがオミッチャンに歌にダンス、アクションを特訓するが、オミッチャンはどれもろくにできない。ペットントンは呆れるが、オミッチャンはその気になっていた。

オミッチャン「この地球でスターになってみせる。聖子やマッチがスターになれたんですもの。このオミッチャンがスターになれないわけはないわ」

 

小百合「え、オミッチャンが芸能界にデビュー!?」

セロリ「ペットントンをスターにするんじゃなかったのかい」

ネギ太「まあ、人生いろいろあるから」

 オミッチャンは、UFOを会場にして無料の芸能界デビュー記念リサイタルを開催。ネギ太たちやナス夫、トマト、セロリ、野原院長、ジャモラー(声:八代駿)などが出席。司会はペットントン。オミッチャンは「お久しぶりね」「夢芝居」「チャンピオン」などを熱唱する。しかしとんでもなく下手だった。

セロリ「われわれは人間だ。やめなさい!」

 苦しむ観客。ガン太はひとりむしゃむしゃ食べる。やがてみな途中で帰ってしまった。

 

 リサイタルのせいで、畑家にてダウン気味の一同。そば屋のマサト(高木政人)が出前を持ってくる。ひとり元気にそばを食べるガン太。

マサト「おいしい?」

ガン太「うん!」

 

 リサイタルの失敗を嘆くオミッチャン。白けた顔のペットントン

オミッチャン「何よその目は。宇宙人を見下したようなその腐った目は何よ!」

 落ち込んだオミッチャンは、ペットントンを連れて宇宙に帰ろうと強引に地球を飛び立つ。

ペットントンペットントン、行かない」

オミッチャン「おだまり、ペットントン。もう手遅れよ」

 怒ったペットントンが、UFOの機器類を中から破壊。UFOは墜落し、ふたりは地球へ舞い戻る。バラバラになったUFOを前に哄笑するオミッチャン。

オミッチャン「あたし、オミッチャン。これ、いちごちゃん」

 ペットントンはタイムステッキで時間を戻し、UFOを持ち上げてゆっくり降下して墜落を回避。UFOはバラバラにはならなかったが、ドアと天井は外れた。

オミッチャン「ペットントンの意地悪」

 嘲笑うペットントン。オミッチャンはペットントンをつかまえ、頭を踏みつけるのだった。

【感想】

 ミッチャン星人オミッチャンが、第28話以来2度目の登場。28話での加藤盟演出の奇矯な画面設計とは異なり、坂本太郎監督は次々と巻き起こる狂騒を淡々としたタッチで描いている。それゆえ今回は、役者さんの怪演や当時の芸能ねたが目立った(坂本演出は画づくりよりもクールなテンポや破壊的な盛り上げが特徴的で、本エピソードはその特質が顕著に出ているように思われる)。

 冒頭の畑家の悪乗りアドリブ合戦から爆笑(中盤でセロリとトマトが言い争うシーンでは、ふたりが意味もなく手合わせ遊びをし始める)。そして損壊したUFOを前にオミッチャンが狂乱するシーンには、圧倒される。オミッチャンの活躍する話としては、第35話45話のほうが個人的には印象に残っているのだけれども、福原一臣氏の怪演は今回が最も切れている。「あたし、オミッチャン。これ、いちごちゃん」と、ひとり哄笑するシーンには茫然となった。

 

 中盤のロケ地は、第535話などでも使われた東映特撮では定番の所沢の航空記念公園。

 

 畑家でナス夫の唄う、わらべ「もしも明日が」は1984年のヒット曲で、翌1985年の映画『台風クラブ』でも印象的に引用された。最近、NHKでも深夜にこの時期の映像とともに流れており、1980年代半ばを象徴する一曲であろう。

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 オミッチャンが中盤で唄うひとつである梅沢富美男「夢芝居」は、第42話ではガン太そっくりの乙姫さまが熱唱。浦沢義雄脚本『うたう!大龍宮城』(1992)の第39話「ホタテガイ」にも使われている。

 「声に出して笑って」という突っ込みは、浦沢脚本の『美少女戦麗舞パンシャーヌ』(2007)の第3話「健康的な幽霊」にもあった。

 

 クライマックスではオミッチャンのショートケーキ型UFOの模型が登場し、ミニチュア特撮が見られる。不思議コメディーシリーズの前作『バッテンロボ丸』(1982)では登場するメカが多く、必然的に特撮シーンもあって矢島信男特撮監督やスタッフがクレジットされていたが、本作ではミニチュア特撮は珍しい。専門外の本編スタッフが撮ったのだろうか。

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