第44話「ナイターか!?正義の味方か」(1984年8月12日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)
【ストーリー】
土曜日の午後。ナス夫(佐渡稔)が帰ったら、ネギ太(高橋利安)はナイターへいっしょに行くのを愉しみにしていた。
ネギ太「母さんにはナイターを見に行く少年の気持ちってものが判んないの。ペットントン、お前なら判るだろ」
ナス夫が昼過ぎに帰宅。早速、水を持ってくるネギ太。トマト(東啓子)とペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)は笑う。
トマト「調子いいんだから」
ネギ太「当然でしょ。ナイターに連れて行ってもらうんだから」
ナス夫は「そうだったそうだった」と巨人・大洋戦の外野席のチケットを渡す。はしゃぐネギ太。
トマト「ペットントン、いいわよね〜私たち夜ふたりでおいしいもの食べましょうね」
ペットントン「そうしようね〜」
そこへ警官(高橋等)が飛び込んでくる。
警官「セロリおばあちゃん何とかしてくださいよ、もう!」
トマトは「南無阿弥陀仏」と唱える。セロリ(斎藤晴彦)は区の土地に1週間もテントを張って、キャンプしているのだという。
警官「もう、あのばあちゃん、やだよ!!」
トマト「静かだったのに…」
セロリは、空き地で流しそうめんをつくっていた。
老人たちがうまそうに食べる。警官とナス夫、ペットントンが来る。
警官「畑さん、ここはね、区の土地なんですから、即刻退去させてください」
ナス夫「判ってます、判ってます」
セロリ「ナス夫、私は絶対帰りませんからね」
やだやだとテントへ逃げ込むセロリ。「パーティーは終わりですよ」と老人たちを帰らせる警官。テントには“セロリの家”という旗が。セロリはどうしても帰らないという。
警官「機動隊呼んで、強制退去させましょうか」
ナス夫「そんな大げさな」
ナス夫は流しそうめん台に水を注ぐ。
警官「何のつもりですか。水に流せってんですか」
テントでお茶を飲むセロリ。
セロリ「勝手に心配すればいいんですよ。私はこの通りぴんぴんしてますからね!」
ナス夫に文句を言いつづける警官。
警官「自衛隊呼びましょうか」
警官とナス夫の横を、不審な男が通ってテントへ入る。そのヒゲの男は、山田(朝比奈尚行)だった。セロリは、山田さんにはお世話になっているという。
山田「誰か、きょう1日だけ正義の味方やってくれないですかね」
ペットントン「正義の味方ムニ?」
山田「山田さんはね、正義の味方をやってらっしゃるんですよ」
不思議がるペットントン。
山田「いいんです、いいんです。どうせ判りにくい商売ですから」
山田は、きょう1日だけ正義の味方の代わりを誰かにやってほしいらしい。
セロリ「正義の味方に休まれたら、悪漢がのさばるばかりですからね」
セロリは、外でパーティの片付けをするナス夫に正義の味方をやらせることを思いつく。
ナス夫「冗談じゃありませんよ。私に正義の味方ができるわけないでしょ」
山田「大丈夫ですよ、正義の味方なんてのはね、ただかっこつけてりゃいいんですから」
セロリ「ナス夫、お前が正義の味方やってくれればね、私はこのキャンプ取り壊しますから」
喜ぶ警官。
警官「畑さん、これは警察からの命令です。あんたが正義の味方やりなさい」
テントは畳まれた。
畑家でことの次第を報告するナス夫。
トマト「それでお母さま、山田さんのお宅行っちゃったの。困ったわ、どうしましょ」
セロリが帰ってこないので、嬉しげなトマト。ナイターのことを懸念するネギ太。
ナス夫「大丈夫、正義の味方の営業時間が10時から6時までで」
ネギ太「それじゃ間に合わないじゃない?」
ナス夫「ところがきょうは土曜日だから、3時までで営業時間は終わり」
ネギ太「どうでもいいけど、ナイターだけは連れてってもらうからね。約束だよ!」
ナス夫「大丈夫だよ、父さん約束守るから」
山田に渡されたカバンを開けると、“正義の味方の専用電話”という怪しげな機械が。
ナス夫「何でも、その山田さんとかいう正義の味方は、ひとりで世界中の正義の味方をやってるそうだ」
トマトは「頭痛くなってきた」と嘆息。すると専用電話が鳴る。
ナス夫「はい、こちら正義の味方です。何、悪いやつにやられた? 場所はどこ? 三丁目の角、はい。何、リクエストがある?」
被害者のリクエストにより、ナス夫は鞍馬天狗の衣装で「暑いのに」とぼやきながら出動。道端で幼い女の子が泣いていた。
ナス夫「お嬢さんですか、悪いやつにやられたという電話をくれたのは?」
「悪いやつ」の姿を見て驚くナス夫。
畑家では、ナス夫から連絡が入り、ペットントンも出動。
ナス夫はガラガラで女の子をあやしていた。駆けつけるペットントン。
ペットントン「悪いやつどこだムニェ」
悪いやつとは、家の前に繋がれたブルドッグのことだった。
ナス夫「ペットントン、何とかあのポシェットを取り返してくれんか」
ペットントンは向かっていき、ブルドッグと格闘。どうにかポシェットを奪還する。
ナス夫「正義の味方のおじさんが取り返してあげたからね」
女の子「おじさん、ありがとう!」
畑家にて、手柄を横取りされたペットントンは怒る。3時になって、営業終了しようとするナス夫。
ネギ太「後楽園着くころ、ちょうど練習が始まるよ。行こ行こ」
そこへ専用電話が鳴る。
トマト「あなた、出なくていいの…?」
逡巡するナス夫。
ネギ太「父さん、営業時間終わったんじゃないの?」
結局電話に出るナス夫。
ナス夫「あのう、すいませんが営業時間は終わりました。え、絶体絶命の危機?」
ナス夫はすまんと言って出動。
自室で寝転がるネギ太。
ネギ太「大人って、どうして子どもの気持ちが判らなくなっちゃうんだろう」
ペットントン「ムニェ」
ネギ太「自分だって昔は子どもだったはずじゃないか」
そこへスーパーマンふうのナス夫が現れ、必ず約束を守ると言ってジャンプするが、しりもちをつく。
ナス夫は、やくざふうの男にボコられながら、電話していた。
ナス夫「必ずナイターに!」
ネギ太は自室でチケットを破って、放り投げた。紙片が、落ち葉のように降る。ペットントンはタイムステッキで時間を戻して止め、ナス夫のもとへ。やくざふうの男の頭に植木鉢を乗せて、撃退。ナス夫は走って戻ってきた。
だがネギ太は、ガン太の家へ行ってしまったという。
トマト「私、止めたのよ。父さん必ず帰ってくるからって。でも」
夕食どき、ネギ太は帰ってこない。テレビにはナイター中継が映っている。やがてネギ太は帰宅。つっけんどんな態度のネギ太を、思わずぶとうとするナス夫。目を覆うペットントン。止めるトマト。
ネギ太「ぶてばいいでしょ、早くぶてよ!」
トマトがネギ太をぶつ。
ナス夫「トマト…」
そこへ「ごめんください」と山田が。ナス夫が出て行くと、後ろでトマトが「ごめんね」とネギ太のほうへ。
山田「これ、きょうのお礼と言っちゃなんですけど」
山田が差し出したのは、ナイターの切符だった。
ナス夫「ネギ太、見ろ。指定席だぞ指定席!」
「やったー」と喜ぶ一同。さっきの重い雰囲気は吹き飛んだ。
山田「4枚ありますからご家族で」
トマトとネギ太は踊り始める。
ペットントン「ところで、セロリどうしたムニェ?」
セロリは、オミッチャン(福原一臣)のショートケーキ型UFOに押しかけていた。いびきをかいて寝ているセロリ。嘆くオミッチャン。
オミッチャン「セロリさん、帰って。お願い、帰って」
オミッチャンが布団に入ろうとすると、蹴られる。ますます嘆くオミッチャン。
セロリ「うるさいんだよ!」
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【感想】
親の都合で子どもが愉しみにしているイベントに行けなくなる、という意味ではよくある話。正義の味方の件りはすごいが、その他の部分はNHKの道徳ドラマにでもありそうな内容で『ペットントン』としてはかえって異色かもしれない。
畑家の面々が活躍し、小百合とガン太の出番はゼロ(ガン太は台詞でのみ登場)。このところふたりは出ずっぱりだっただけに、全く現れないと相当異様な印象を覚えてしまう。よくある筋立てで畑家メインというあたりは、『ペットントン』の初期を思い出させる。第41話につづいて、最後に畑家をフィーチャーしようという意図が伺える。
後半になると小百合とガン太、根本のあくの強さのせいでそれほど目立たないネギ太だが、やはり41話と同様にネギ太の葛藤が前面に出た。演じる高橋利安氏の堅実な演技力が堪能できる。
「山田さんの商売は正義の味方なの」「正義の味方なんてのは、ただかっこつけてりゃいいんですから」「正義の味方の営業時間が10時から6時まで」などと台詞で放言されるのにはやや驚かされる。正義と悪との相対化というのはこのさらに20年くらい前から追求されていたテーマで、悪側にも事情や言い分があって正義側と同じだという捉え方がされてきたのだけれども、今回は正義の味方も普通の仕事もそう変わらないという意味での“相対化”が行なわれているのだった。スーパーヒーローねたは、不思議コメディーシリーズの次々作『勝手に!カミタマン』(1985)にて本格的に展開されることになる。
警官がセロリのために自衛隊を呼ぶと言っているけれども、『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第17話「次男の頭はゴールデンウィーク」では主人公のピンチに警官が実際に自衛隊を呼んでいた。
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正義の味方の山田さん役の朝比奈尚行氏は、不思議コメディーシリーズの『ロボット8ちゃん』(1981)や『バッテンロボ丸』(1982)にお父さん役でレギュラーを連投(『ロボ丸』の第49話では監督を務めた)。過去には『シルバー仮面』(1971)の第7話などに出演したり、NHKの人形劇『ピコピコポン』(1987〜1991)の脚本を担当したりするなど実に多才で、近年は“あさひ7オユキ”名義で舞台の脚本・音楽・美術なども手がけている。今回は正義の味方という割りに挙動不審なおっさんで、『バッテンロボ丸』のときのような愛想の良さはまるでなく、朝比奈氏の芸域の広さが伺える。
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正義の味方(を自称する先輩)が怪しげなおっさんというのは、藤子・F・不二雄『中年スーパーマン左江内氏』(小学館)を思い出した。
犬を退治して帰ったナス夫とトマトが話すシーンでは、トマト役の東啓子氏が鞍馬天狗の頭巾をさりげなくかぶっている。何てことないシーンだけれども面白い。ナス夫役の佐渡稔氏は、浦沢義雄脚本の『TVオバケてれもんじゃ』(1985)でも鞍馬天狗に扮している。
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