『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第30話「横浜チャーハン物語」(1984年4月29日放送 脚本:浦沢義雄 監督:冨田義治)

【ストーリー】

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 畑家でペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)が掃除機をかけていると、呼び鈴が鳴る。

ペットントン「はい、ただいま」

 ドアを開けると、ジャモラー(声:八代駿)襲来。ペットントンはジャモラーを掃除機で吸い込んでポリバケツに捨て、一件落着。

 トマト(東啓子)にお使いを頼まれ、その途中に公園でたたずんでいたペットントンの前に、今度は中華街のシェフ・珍満(吉田重幸)が突如現れる。

珍満「お前、ラーメン好きあるか?」

 珍満はラーメン好きなペットントンを引っ張って行こうとする。

珍満「私、とってもとってもかわいそうあるね。私の娘、私の好きでないやつ、愛するあるね」

ペットントン「へ?」

珍満「私、お前気に入ったあるよ!」

 珍満はペットントンに、自分の娘との結婚を迫る。厭がるペットントン。捕虫網を持って追いかけてくる珍満。

珍満「私、ほんとにほんとにしつこい性格あるね」

 しつこい珍満から逃れるため、ペットントンは友だちの輪のアイディアでジャモラーを身代わりにすることに。ポリバケツの中にいたジャモラーを無理やり連れて行く珍満。

珍満「ペットントン、さよならあるね」

 珍満は自転車の荷台にジャモラーを縛りつける。

珍満「ラーメン、タンメン、チャーシューメン、ラーメン、タンメン」

ジャモラー「お助けジャモラー」

 

 帰宅したネギ太(高橋利安)とガン太(飛高政幸)、小百合(川口智子)。

ガン太「まるで誘拐じゃないか」

小百合「ちょっとかわいそう、ジャモラー」

ネギ太「お前やりすぎだよ」

 マサト(高木政人)の持ってきた出前の蕎麦をネギ太たちは元気に食べるが、気に病んだペットントンは元気がない。心配するナス夫(佐渡稔)とトマト。セロリ(斎藤晴彦)は「甘ったれるな、このやろ」とこづく。

 

 そこへ、中華料理店にいるジャモラーから電話がかかってきた。

ジャモラー「おれ、いま横浜ジャモラー」

ペットントン「行く行く助けるムニェ」

 ペットントンは膨らみ、空を飛んで横浜の中華街へ。ジャモラーは電話で言う。

ジャモラー「来ないでいいジャモラー。お助けいらないジャモラー。ここのほうが、おいしいものいっぱいあるもん」

 

 ペットントンは、中華料理屋の屋根を突き破って現れる。だがジャモラーは結婚してもいいという。

 入ってきた珍満。ペットントンは思わずジャモラーを踏み潰す。

ジャモラー「ぎゃー」

珍満「中国にとても古いことわざあるよ」

ペットントン「ムニェ?」

珍満「人生麻婆豆腐、みんな冷やし中華

 ところが珍満がうやうやしく見せた娘とは、シューマイのことだった。

珍満「名前、みゆきあるね」

 珍満はベビーベッドにシューマイの娘・みゆきを入れて、大事に育ててきた。

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珍満「人生麻婆豆腐、みんな冷やし中華。とっても深い意味のあることわざあるよ」

 だがシューマイは姿を消していた。

珍満「私の大事な大事なみゆき、チャーハンと駆け落ちしたあるよ」

 いきなり決めつける珍満。慌てた珍満とペットントンはさがしに出る。

珍満「お前、大変なことしたあるよ!」

 珍満はペットントンの責任だという。「みゆきー」と叫びながらさがす珍満とペットントン。シューマイとチャーハンは、海辺の公園にいた。

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ペットントン「いた、いたよー、いた!」

珍満「このチャーハン野郎」

 だが珍満とペットントンは見失う。また叫びながらさがすふたり。

 シューマイとチャーハンは、レストランにいた。だが珍満とペットントンはまたも見失う。

 珍満とペットントンは遊覧船(あかいくつ号)へ。

珍満「海の上、広いぞあるよ」

 シューマイとチャーハンは、ボートに乗っていた。

ペットントン「いたムニェ」

 身を乗り出す珍満。止めるペットントン

ペットントン「死ぬムニュ!」

 悠然と去って行くボート。

 

 ペットントンと珍満を翻弄したシューマイとチャーハンは、なぜか中華街の街角へ戻っていた。見つけたペットントン

ペットントン「シューマイ、チャーハン好き?」

 すると、シューマイのグリンピースが揺れる。

ペットントン「チャーハン、シューマイ好き?」

 チャーハンのグリンピースも揺れる。

 ペットントンは結婚させることを決意。珍満を突き飛ばし、「ふたり」を畑家に連れ帰った。

珍満「私、ほんとにほんとに怒った性格あるね」

 興奮して中華料理店に戻った珍満は、ジャモラーを踏み潰す。

 

 畑家にて、ナス夫たちは結婚するという「ふたり」に驚く。

セロリ「私はもう、何だか頭が痛くなってきましたよ」

ネギ太「ぼくもですよ」

 ペットントンは「頭痛くなってる場合じゃないムニェ」と発破をかける。そこへ青竜刀を持った珍満が乱入。

珍満「豆板醤には青椒肉絲!!」

 テーブルをまっ二つにして暴れる珍満。ペットントンはタイムステッキで時間を止め、青竜刀を電気のこぎりで切り落とした。ナス夫やセロリたちが珍満を鎮圧。

ペットントン「シューマイとチャーハン、結婚させるかムニェ?」

 珍満もようやく結婚を認めた。

 

 教会でシューマイとチャーハンの結婚式が行われた。ペットントンが神父で、珍満とネギ太、ガン太、小百合、ジャモラーも出席。

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ペットントン「それではグリンピースの交換ムニュ」

 「ふたり」はグリンピースを交換。珍満は嘆く。

珍満「せめて五目チャーハンぐらいと結婚してもらいたかったあるよ」

ネギ太たち「ばんざーい、やったやったー」

ペットントン「おめでとー」

 紙吹雪がふりそそいだ。

【感想】

 さあ、いよいよ最大の問題作として名高い第30話で、気になっていたエピソードなのだが…。

 浦沢義雄脚本によくあるパターンが無生物が意志を持って行動し始めるというもので、その嚆矢がこのエピソードであろうか。『ペットントン』の次作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第10話「バス停くん田舎へ帰る」や第16話「肉まん・アイス大戦争」、『うたう!大龍宮城』(1992)の第45話「スズメダイ」、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第21話「いじけたジューサー」などが無生物路線の傑作として挙げられるが、筆者は幸か不幸か凝った展開のそれら諸作を先に見ていたので、今回の第30話はひねりがやや足りないように思えてしまった。だが後期の作品のほうがより洗練されてくるのは当然であり、この時点での『ペットントン』第30話の挑戦は正当に評価されなければならない。 

 ちなみに浦沢脚本のチャーハン主体のドラマとしては、『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)の第12話「レイモンドとチャーハン」があり、意外な展開とせつないラストで優れた達成を見せた(この「横浜チャーハン物語」があったからこその成功である)。

 チャーハンとシューマイの印象が強いけれども、前半は主に珍満が目立っており、チャーハンは中盤にようやく登場。シナリオをそこまで書き進めて「あ、娘をチャーハンにしよう」と思いついたのであろう(第8話「ゴリラvsびっくり看護婦」でもタイトルロールのゴリラは中盤まで全く登場しない)。全体を逆算しない、この時期の浦沢流脚本術である。

 全般に追っかけの場面が長すぎてちょっと退屈な感もあるが、後半の中華街など横浜の風景が見られるのはいい。珍満の中華料理店はセットのようである。わざわざセットを組んだあたり、今回の力の入れようが見てとれる。

 チャーハンとシューマイがボートに乗っているシーンは、実際の海のロケ撮影とセットとを併用して撮っている。悪くはないけれども、浦沢脚本の『テツワン探偵ロボタック』(1998)の第14話「恋する餃子の涙」での餃子が春巻きとボートでデートする場面のほうが、後年の作品だけに構図の美しさが際立つ(エピソード全体の出来は「横浜チャーハン物語」が上回る)。

 結婚式で指環の代わりにグリンピースを交換するのには爆笑。ラストカットのスローモーションは、ある不可思議な余韻を遺す。クレジットによると、撮影が行われたのは高田馬場の平安閣(不コメでは『もりもりぼっくん』〈1986〉の第29話でも使われた)。

 珍満が「豆板醤には青椒肉絲!」と叫んでいるが、浦沢脚本では『おもいっきり探偵団 覇悪怒組』(1987)の第44話「狸ばやしに誘われて」に“豆板醤婆あ”が登場する。

 浦沢先生は今回に関して、放送終了直後のインタビューで「監督もよく撮ってくれていたけど、やっぱり観念的な部分が強いから、画としては…。やっぱり本当はやっちゃいけないんだろうね」と総括しており(「宇宙船」Vol.18)やや不満だったのが伺える。

 珍満役を熱演した吉田重幸氏は、セロリの斎藤晴彦氏と同じ劇団黒テントに当時は所属していて、その関係の出演であろう。本作のスピンオフ的な『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の第9話「逃げろや逃げろ!!ヒーローはつらい」でも斎藤氏と共演。近年は演劇ワークショップを中心に活動されているという。

 公園でペットントンに話しかけてくる犬の声は神山卓三氏(第26話でもコンピューター役を担当)。今回の出番はわずかでなかなか贅沢な使い方である。

 

 浦沢脚本の十八番である無生物路線もスタート。大人中心の第1期に始まり、子どもたちに比重が移る第2期を経て、第30話からは無生物などおもしろくて変な話が増える第3期である。子どもたちのキャラが立ってきて、大人たちはもちろん脂がのっており、『ペットントン』は円熟のときを迎える。

 

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