『ペットントン』研究

『ペットントン』(1983〜84)を敬愛するブログです。

第20話「根本君はスーパースター」(1984年2月19日放送 脚本:浦沢義雄 監督:加藤盟)

【ストーリー】

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 畑家では、セロリ(斎藤晴彦)がピアノをかき鳴らし、現代音楽の作曲に挑戦。

トマト「あなた、やめさせて。うち音楽間に合ってるから」

 だがセロリは聞く耳を持たない。

セロリ「♪ドミソララーメン ファミレドドーナツ」

 ナス夫(佐渡稔)とトマト(東啓子)は逃げようとするがセロリに捕まり、音楽を聴かされる羽目に。セロリはペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)に、ネギ太(高橋利安)や小百合(川口智子)、ガン太(飛高政幸)も呼んで来いと命じる。

 根本(玉木潤)は小百合の自宅前で、プレゼント攻勢をかけていた。

根本「気持ちですよ、気持ち」

小百合「気持ちで毎日プレゼント、貰えない」

根本「ぼく、好きだなあ。そういう恥じらいを見せる小百合さんって」

 

 ガン太は、「おれたちは、このボールに青春を賭けるんだ」とネギ太に迫っていた。

ガン太「おれのキックはただのキックじゃないんだ。ネギ太、おれの愛のキックを受けてみろ」

 そこへ小百合が現れると、ネギ太は彼女のもとへ行ってしまう。

ガン太「これだもんな」

 小百合は、毎日贈られるプレゼントに辟易していた。

ガン太「ネギ太のやつ、小百合なんかと仲良くしやがって。おれの気持ち、全然判ってくれないんだ。でもいいや。ネギ太だって、いつかきっと、おれの気持ち判ってくれるさ」

 『アタックNo.1』の主題歌が流れ出し、「♪苦しくったって〜」と踊るガン太。

ガン太「だけど、涙が出ちゃう。男の子だもん。ネギ太!」

 

 ネギ太は根本を呼び出し、プレゼントの山を根本に押し返す。

ネギ太「お前、嫌われてるの判らないの?」

根本「彼女、ぼくの愛を素直に受け止められないだけですよ」

 平気そうに見せかけて、実は傷心の根本は陰で号泣。 

 

 畑家ではセロリが木魚や鍋、フライパンをドンツク叩く。不協和音のような音楽が鳴り響いた。

セロリ「拍手!」

ナス夫「ブラボー」

トマト「お母さま最高!」

ナス夫「ベートーベンを超えた!」

 セロリはネギ太たちの帰りに備えて、トマトにケーキを用意してくれと言う。

 

 根本は焼き芋をやけ食いしていた。

根本「なってやる。焼き芋食べ過ぎて、病気になってやる!」

 そこでネギ太をさがすペットントンと出会った根本は、友だちの輪を使い、「小百合さんにもてるには」正義の味方になればいいとお告げを受ける。根本は、ペットントンに悪役を頼む。

根本「ペットントンくん、悪いんだけど悪漢やってくれないか」

ペットントン「悪漢? あかん、あかん」

 もちろん断るペットントンだが、根本はペットントンを襲うジャモラー(声:八代駿)を追い払う。助けてもらったペットントンは、渋々協力することに。根本は、コスプレしてネモトマンに変身した。

 

 ネギ太と小百合は、公園でブランコに乗っていた。

小百合「お話ってなあに?」

ネギ太「それが…」

小百合「何よ、話しなさいよ。もうすぐ春ね」

ネギ太「そう、もうすぐ春。その次は夏。その次は秋。その次は冬」

 ネギ太はなかなか言い出せない。

ネギ太「小百合ちゃん、将来どんな人と結婚…」

小百合「結婚?」

 そこへペットントンが現れ、「ごめん」と小百合のスカートをめくる。ラジカセを持ったネモトマンが登場(BGMは『ザ・カゲスター』〈1976〉)。

根本「小百合さーん、ネモトマンが助けに参りました」

ネギ太・小百合「ネモトマン!?」

根本「こら、悪漢ペットントン。正義の味方ネモトマンが懲らしめてやる」

 ネモトマンはペットントンをやっつける。

小百合「ばっかみたい」

 冷たい小百合。

 だが、一旦引き上げた根本は意気軒昂。

根本「正義の味方になって小百合さんを助ける。その小百合さんは正義の味方に恋をする。あー、ドキドキしちゃうなあ」

ペットントン「ドキドキトントン」

 それを見たガン太。

ガン太「なっはっはっはっは。正義の味方がネギ太を助ける。そのネギ太が正義の味方に恋をする。あー、ドキドキしちゃうなあ」 

 ガン太は、自分も正義の味方になってネギ太にいいところを見せることを思いつくが、すっころぶ。

 

 小百合に結婚の話をしようとするネギ太。その前に、また悪漢ペットントンが来る。

ペットントン「や、やい」

ネギ太「あ、またお前かよ」

ペットントン「ムニ」

小百合「また私のスカートまくりに来たの?」

ペットントン「ムニェ」

小百合「いいわよ」

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 すかさず、ラジカセを持ったネモトマンが登場。

根本「ネモトマンただいま参上」

 ネギ太と根本がつかみ合いになっていると、コスプレしたガン太が現れる。

ガン太「ネギ太くん、きみにはこのガンちゃんマンがついている。ひらーり」

ペットントン「ムニェ、ガン太ムニェ?」

ガン太「覚悟しろ、ペットントン

 ネモトマンとガンちゃんマンはペットントンを叩きのめす。

小百合「でも根本くんもガンちゃんも楽しそう」

ネギ太「え?」

小百合「私、ああいう愉快な男の子ってだーい好き」 

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 小百合の意外な反応を受け、ネギ太はネギ太ーマンになって参戦。

ネギ太「正義の味方、ネギ太ーマン」

 3人はペットントンを襲撃。

小百合「そうだ、私も!」

 見ていた小百合も「私も入れてー」と、小百合ウーマンになって加わる。ペットントンフルボッコ状態に。

 

 畑家では、セロリの地獄のコンサートがつづいていた。ダウン気味のナス夫とトマト。そこへペットントンが「セロリ、助けてムニェ」と逃げ込んできて、やがて4人もなだれこむ。

根本「正義の味方、ネモトマン」

ガン太「ガンちゃんマーン」

ネギ太「ネギ太ーマン」

小百合「小百合ウーマン」

 みなは乱闘を始めてクッションの羽毛を撒き散らし、果てはケーキの投げ合いに。ペットントンのタイムステッキでセロリの顔にケーキが命中し、セロリはのびた。ナス夫とトマトは、コンサートから解放される。

 「ずいずいずっころばし」の流れる中で、コスプレ姿のまま庭で戯れるネギ太と小百合、ガン太、根本、ペットントン。そこへナス夫とトマトも加わる。根本は小百合のことをあきらめないと宣言。

茶壺に追われてとっぴんしゃん 抜けたらどんどこしょ」

 咲き乱れる花の向こうで遊んでいるみなを、色とりどりの紙吹雪がつつむ。それはまるで白日夢のような光景だった。 

【感想】

 『ペットントン』と言えば第30話「横浜チャーハン物語」第36話「豆腐がおこった日」が代表作として挙がることが多いが、筆者の思う最高傑作エピソードは本話。19話まで見てきて、そう悪くもないけれども、浦沢義雄脚本ならば後年の作品のほうが飛んでいるのでは?などと若干見くびり気味だったのが、ここで居住まいを正した。

 本話は先の読めない展開をミュージカル風味で描いた、私見によれば日本の放送史に特筆されるべき一大怪作。特に意味不明なラストシーンは苦情?が来てもおかしくないようないかれぶりであり、この日のお茶の間はどんな空気が流れたのか気になる。

 冒頭で、洗濯物を干しながら「銀座の恋の物語」をいきなりデュエットするナス夫とトマト。そのシーンから、今回のエピソードの只者でない感が何となく漂っている(「銀座の恋の物語」は不思議コメディーシリーズ『もりもりぼっくん』〈1986〉の第36話「サムシングは泣かない」でも唄われた)。セロリの「♪ドミソララーメン」も可笑しい。セロリは現代音楽、ナス夫・トマトは歌謡曲、ガン太はアニソンと曲はさりげなく棲み分けられている。セロリが現代音楽にチャレンジするというのも、新しいジャンルの音楽が次々生み出されていたこの時代をしのばせる。

 根本が姿を見せるのは、初登場の第14話以来。根本は「焼き芋食べ過ぎて、病気になってやる」と言っているが、後年の『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)の第1話「あの娘が街にやって来た」には「こうなったらお菓子をたくさん食べて、この若さで糖尿病になってやる!」というグレードアップした?台詞がある。 

 今回のネモトマンは好評だったようで、最終話にもわずかに登場。不思議コメディーシリーズの集大成的な次々作『勝手に!カミタマン』(1985)では同じネモトマンという名のレギュラーキャラが登場する(『ペットントン』の根本とは無関係で、役立たずぶりが強調されている)。

 他に浦沢脚本における変なヒーローの系譜としては、『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第36話「お彼岸ライダーの謎」のお彼岸ライダーや『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第30話「ワルサの恋人」の親切仮面などもある(これらは仇役だが…)。 

 ガン太が『アタックNo.1』に合わせて踊るところで、もう爆笑。後半のガンちゃんマンの変な仕草といい、飛高政幸氏のアドリブも入っているのだろう(著作権は大丈夫?)。

 

 ネギ太と小百合がふたりっきりになるのは、これも第14話以来だろうか(第16話ではガン太に邪魔された)。ふたりでいい雰囲気?でいるところへ闖入者・ネモトマンが現れるのだけれども、この舞台となる公園はいつもの武蔵関や石神井ではなく井草の児童公園らしい。何の変哲もない公園でも、他の回で使われていないゆえ今回の非日常感が増幅される。

 顔にケーキを喰らうのはナス夫とトマト、小百合、セロリの4人だが、前回の予告編ではガン太の顔にも命中している(カットされたらしい)。

 

 畑家での悶着のあと、庭でペットントンと子どもたち、ナス夫、トマトが戯れるラストシーンの強烈さには息を飲んだ。浦沢脚本では1980年に書かれた未映像化の映画脚本「スウィング」にて、終盤で銃撃戦から幻想世界に突入する趣向があり、読んでいてこの20話を想起した。80年代までの浦沢脚本は夢見る破壊衝動というような感覚が散見される。

 花の向こうで遊ぶ光景は、加藤監督の色やカメラマン(林迪雄)のセンスも発揮されているのかもしれない。それにしてもここで「ずいずいずっころばし」を流すというのには、ただ敬服する…。